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エンジン(空冷と水冷・液冷)

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第二次世界大戦、太平洋戦争時に兵器で使われていたエンジンには大きく「空冷方式」「水冷・液冷方式」の冷却方式の違い、そして「ガソリンエンジン」と「蒸気タービン方式」、「ディーゼルエンジン」の動力源の発生方式の違いがある。
いずれも多国で大いに研究され、船や車など、軍民問わずあらゆる機械に採用されていった。
本項ではエンジンの性能を維持させるために必須である「冷却」方式について説明をする。

まず「空冷方式」とは、エンジンを空気の流れで冷やす方式である。
多くはエンジンそのものを動力として冷却ファンを回し、エンジンが駆動している間は常に風が送り込まれる「強制空冷式」と、走行によって入り込んでくる空気をそのまま冷却に活用する「自然空冷式」の2つがある。
「自然空冷式」はオートバイなど、高速で風を発生させ、エンジンが覆われていない機械に使われていた。

レシプロエンジンの全盛期であった第二次世界大戦前後の航空機で、空冷式を採用している場合はおおむね「自然空冷式」も盛り込んだ上での「強制空冷式」である。
航空機はもちろんオートバイとは比較にならないほどの高速を誇るのだが、それでも「自然空冷式」ではエンジンを冷やしきれないため、加えて「強制空冷式」を併用して冷却に努めている。
高出力エンジンは、高馬力を発揮できる能力を備えることよりも、その能力を安定して発揮させることが難しいため開発と運用に苦労した。

例えば中島飛行機の「栄/ハ25・誉/ハ45」は、ともに高出力エンジンとして陸海軍で大きな期待を寄せられた。
しかし最大出力を発揮すると性能が低下し、非常に不安定なエンジンであった。
エンジンは冷却しきれなくなるとオーバーヒートを起こし、異音や回転率の減少などの問題を引き起こす。
この中島が生産した両エンジンはともに最大出力でエンジンを動かすことが極めて困難で、結局出力を落として安定性を重視させる必要性に迫られた。
ただしエンジン以外の問題も多く影響しているため、一概に構造の問題だけとは言い切れない。

次に「水冷・液冷方式」であるが、これも字のごとく水や液体でエンジンを冷やす方式である。
水冷は水、液冷は水とは異なる冷却液、もしくは水と別の液体を混ぜたものを用いる。
以後、2種合わせて「水冷」で統一する。

「水冷方式」はエンジンの周囲に液体の通り道を作り、そこでエンジンの熱を吸収させる方式である。
液体はもちろんその熱によって温まるため、排水をしたり、循環させて再び冷やしたりと、方法は使用する構造部によって様々である。
例えば船の場合は海水という大きな資源があるため、エンジンを海水で冷却させた後排水し、新しい海水と入れ替えるという方法を採れる。
小型飛行機などは液体を機体内で冷却して再利用する必要があるため、他にも特に熱交換器のラジエーターや温度調節のためのサーモスタットが必須となる。

次に第二次世界大戦時点でのこの2つの方式の対比をする。

空冷式 水冷式
構 造 単純・軽量 複雑
コスト 安価 高価
性 能 水冷に比べて低い 高性能

① 構造

「空冷方式」の構造は「単純・簡易」と表したが、出力を上げる上ではここが複雑に、そして大型にならざるを得ない問題もある。
空気の通り道を作ることができればいいため、基本構造としては「自然空冷式」に代表されるように非常に単純である。
ただし、エンジンは燃料を燃焼させて発生した水蒸気をどのように運動エネルギーへ転換させるかであり、このエネルギーを増大させるためには前述の通り大型化、重量の増加は避けられない。
しかし部品数や特殊構造の観点では「水冷方式」と比較すればまだまだ複雑ではなく、量産という面では「空冷方式」に大きく分があった。
さらに航空機エンジンとしては軽量であることも大きなメリットで、出力がたとえ不足していても、自重が軽ければその不足分を補えるのである。

一方「水冷方式」がなぜ複雑になるかというと、必要な部品が多いのがあげられる。
エンジン回りに液体を流す経路が必要であったり、前述のラジエーター、冷却液そのものの蒸発を防ぐ装置、液漏れを防ぐ必要があるなど、とにかく複雑にしなければ真価が発揮できないのがデメリットだった。
また、使用する冷却液そのものも、凍りにくく蒸発しにくい液体の開発に迫られ、水から冷却液へと変化を遂げていくが、そのために燃料以外にも液体を造成する必要があった。

② コスト

言わずもがな、「空冷方式」のほうが単純なために安い。

③ 性能

前述の通り、「空冷方式」は性能を高める上ではどんどん大型化していくのだが、それによって単純・軽量というメリットを損なっていく。
日本の航空機では「空冷方式」が大多数を占めたが、やがてエンジンの大型化・重量増によって機体の設計の枷になっていった。
大型化すると機体の空気抵抗も増えるため、出力増の一部が抵抗によって抑えられてしまうのである。

一方「水冷方式」は、そもそも空気よりも冷たく、エンジン全体を包み込める液体のほうが冷却性能が高いメリットがある。
そして冷却性能が機体内ですべて制御できるため、安定性が「空冷方式」に比べて非常に高かった。
安定性が高ければ高出力のエンジンを搭載しても冷却が保全されるため、機体そのものも性能も向上する。
結果として特に速度面、そして重量増に耐えきれる出力を発揮できるエンジンが製造できた。
また、冷却液がエンジンの振動・騒音を吸収してくれるため、静穏性も高めることができた。

簡単に3つの基準で比較をした。
第二次世界大戦、太平洋戦争において、「空冷方式」を主力としていたのは日本とアメリカ海軍、フランスで、イギリスやドイツなど技術的に優れた国々では「水冷方式」のほうが主流であった。
ただし欧州は「空冷方式」も量産のために採用するケースもある。

日本が「空冷方式」を採用したのは、液冷の技術を習得できなかったからというのはすでにお分かりかと思う。
ならば、なぜ世界一の工業力を誇るアメリカが、性能が上の水冷エンジンを採用しなかったのか。
これには、上記の比較にはない、もう1つの違いがあるからである。
それは各国の戦闘地域の問題である。

欧州は戦闘範囲内には海がほとんどない。
あるとすればドーバー海峡だけで、それも一番狭い距離だとたった34kmである。
つまり緊急時でも着陸できる場所は豊富にあり、とにかく速度を追求し、そのために空気抵抗を抑える必要があり、つまりはエンジンは小さくする必要があった。
技術力が備わっていたイギリス、ドイツはこれらの条件から「水冷方式」が採用され、技術が磨かれた。

一方アメリカは、特に海軍機は海軍の活動範囲に影響を受けるため、太平洋での飛行が想定された。
海上でもし操縦に支障が出た場合、不時着できる場所もなく、またもし水上に無事に着水できたとしても、そのあと救出されるかどうかはまったくわからない。
そこで、複雑で故障した場合の手立てがない「水冷方式」よりも、単純で故障しにくい「空冷方式」を採用したのである。
しかしアメリカは「空冷方式」でも世界一の工業力を遺憾なく発揮し、結果的に超馬力のエンジンを生産し、それでいて小型で丈夫なエンジンと機体を世に送り出した。
やがて航空機の「水冷方式」は、ジェットエンジンの普及と「水冷方式」の限界の関係から徐々に姿を消していった。

ここまで空冷・水冷と、主に航空機のエンジンをについて述べてきた。
続いて船舶と戦闘用車両でのエンジンについて述べる。
船舶においては海水・真水を活用した「水冷方式」であるが、船舶は本項の題材よりも別項のタービン、ディーゼルの比較が主題となるため割愛する。
ちなみにタービン方式は冷却水が不要で、ディーゼルは空冷、水冷いずれの方式も存在する。

戦闘車両(以後、便宜上「戦車」に統一)においての冷却方式であるが、まず日本は世界では珍しくディーゼルエンジンを採用している。
なぜディーゼルを採用したかは脱線になるので別項にて説明するが、戦前戦中にディーゼルエンジンを戦車で採用してる国は非常に少なかった。
その冷却方式であるが、日本はディーゼルエンジンであることから必然的に「空冷方式」を採用している。
「空冷方式」のメリットは前述の通りだが、そのほかにも日本は多くの理由において「空冷方式」を採用している。

例えば、
・対ソ連を意識すると、寒冷地での冷却水凍結の恐れがある
・戦闘地域において冷却水を確保するのが困難
・被弾による影響の軽減
などがある。
ただし「水冷方式」よりも騒音性で劣るため、行動は慎重に行う必要があった。

一方、「空冷方式」を採用している国は少ない。
アメリカが有名どころでは【M3中戦車 リー】【M4中戦車 シャーマン】「空冷方式」を採用しているが、ほとんどの国の第二次世界大戦時の戦車は「水冷方式」である。
日本が危惧した水の確保の困難という問題は、特に第二次世界大戦の北アフリカ戦線で表面化したが、それでも諸外国は圧倒的に冷却性において優位である「水冷方式」を捨てることはできなかった。
数百km/hで飛行する航空機とは違い、戦車は何十km/hという速度であるから、冷却ファンと自然の放熱に頼るしかない「空冷方式」は航空機エンジン以上に冷却効率は悪いのである。

水冷は故障してしまうと大変だが高い冷却効果で故障しにくく、空冷はオーバーヒートの危険性があるが整備しやすい、まさに一長一短であった。
しかし「水冷方式」は被弾によってエンジンに影響を及ぼす箇所がいくつもあるため、敵からの攻撃を耐えるべき面積が広くなるという弱点もある。

用 語
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※1 当HPは全て敬称略としております(氏をつけるとテンポが悪いので)。

※2 各項に表記している参考文献は当方が把握しているものに限ります。
参考文献、引用文献などの情報を取りまとめる前にHPが肥大化したため、各項ごとにそれらを明記することができなくなってしまいました。
勝手ながら今は各項の参考文献、引用文献をすべて【参考書籍・サイト】にてまとめております。
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