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零式艦上戦闘機五四型・六四型/三菱
Mitsubishi A6M8(Zero)

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※確実に五四ないし六四型の写真だと断定されてはいない

零戦開発物語 零戦と戦った戦闘機達
零戦+防弾性-Xのif考察 零戦と防弾性の葛藤

大前提として、型式の付番パターンを説明しておきます。
型式は2桁の数字で構成されますが、10の桁の数字が機体形状、1の桁の数字がエンジン型式を表します。
【三二型】の次が【二二型】になるのは、生産された順番ではなく、【二一型】の機体形状に【三二型】のエンジンが搭載されたためです。

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零式艦上戦闘機五四型・六四型

全 長 9.237m
全 幅 11.000m
全高(三点)
主翼面積 21.338㎡
翼面荷重 147.6kg/㎡
自 重 2,150.0kg?
正規全備重量 3,150.0kg
航続距離 全速30分+820km(正規)
2,620km(増槽)
発動機/離昇馬力 金星六二型/1,500馬力
上昇時間 6分50秒/6,000m
最大速度 572km/h
急降下制限速度 740km/h前後
燃 料 胴体+翼内合わせて650ℓ
増槽:200ℓ×2
武装/1挺あたり弾数 三式13mm機銃 2挺/230発
九九式20mm機銃二号四型 2挺/125発
搭載可能爆弾 いずれか1種類
250kg爆弾 1発
500kg爆弾 1発(のち可能)
三式一番二八号爆弾 10発
六番二七号爆弾 2発
九九式三番三号爆弾 4発
符 号 A6M8
生産数 三菱:試作機2機

出典:
[歴史群像 太平洋戦史シリーズVol.33]零式艦上戦闘機2 学習研究社 2001年
零戦と一式戦闘機「隼」 イカロス出版 2019年

【五四型】はここにきてようやく自社製の「金星六二型」を搭載することになった機体です。
対象となったのは重武装でぼちぼち頑丈になったのにベテランパイロットには敬遠され、「栄三一型」周辺で発生したゴタゴタの末に誕生した【五二丙型】でした。
改造に使われた機体は【五二丙型】ですが、量産のベースになったのは【六二型】なので、試作時は【五四型】、量産時は【六四型】となった、と言われています。
「栄」のサイズのエンジンは限界に達していること、そして「栄三一型」の審査が遅れ、かつ本調子になるのを待つ暇もない。
さらに中島に【零戦】【隼】もまだこれですが)のためだけに「栄」を作らせるのもいい加減まずい状態でした。
中島は「誉」生産にかなりの労力を割いていて、「栄」の生産量がどんどん低下、ついにエンジン待ちの【零戦】が出てくるようになったのです。
急いで減産計画を立てないとということで、いろんな理由から「金星」に白羽の矢が立ったのです。

馬力だけで見れば中島の18気筒離昇2,000馬力エンジン「誉」が有力でしたが、なかなか手懐けるのが難しい「誉」に中島も海軍も手を焼いていて、ここまで多くの航空機が「誉」の気まぐれな好不調に頭を抱えてきました。
その「誉」が昭和17年/1942年末から生産が始まっているのと同じように、「金星六〇型」も同年には完成しているので、タイミングだけで見れば【五二型】の時に「金星六〇型」を突っ込むこともできたはずですが、いろいろ嚙み合わずここまで実現できずにいました。
「金星六〇番台」は離昇1,500馬力と、「誉」にはもちろん劣りますが同じ14気筒の「栄」から比べれば断然パワーアップ、さらに「栄三一型」同様に水メタノール噴射装置、さらに直接燃料噴射装置が備わっています。
直接燃料噴射装置も文字通りなのですが、こうすることで従来キャブレターが気圧や温度変化に振り回されていた問題が解消され、安定的な燃料燃焼が可能になります。
ポート噴射装置が備わっておりました。
直接燃料噴射とは異なり、吸気ポートに燃料を噴射させ、そこで空気を混合させてから燃料を送る方法です。
燃料と空気がうまく混ぜ合わさってから燃料が消費されるので、燃料の質が安定するメリットがあります。

この「金星六〇番台」ですが、「誉」よりはまだ問題を起こさないエンジンだったようで、馬力が落ちても様々な機体に救いの手を差し伸べています(あくまで「金星」のほうがマシというだけで、安定しているというわけではない)。
まず陸軍の「一〇〇式司令部偵察機三型」に「ハ112-Ⅱ(金星六二型)」が搭載されて帝国軍最速の軍用機となっています。
その後水冷エンジンの不調に苦しんでいた【彗星】の「熱田」が「金星六二型」を搭載した【彗星三三型】に、そして「三式戦闘機『飛燕』」の「ハ40」が「金星六二型」を搭載して「五式戦闘機」へと変貌。
【彗星】【飛燕】はともに元が液冷エンジンですので「金星」に変えることで形状が大きく変更されています。
しかし【零戦】はもとが空冷エンジンなので、「金星六二型」の直径103mmに合わせた多少の大型化はありましたが、【零戦】のイメージを損なう変化はほぼありません。
ただ「金星六二型」そのものが約670kgとかなり重いので、この辺りの強度バランスが内外で発生しています。

【五四型】の図面は発見されたようですが、出回っている写真については真偽のほどが定かではないようです。
初期の【二一型】などと比べると圧倒的にエンジン回りの直径は大きくなっていることがわかりますし、また気化器空気取入口が上に移動したのも外見の大きな特徴です。
重心の関係から機首にある13.2mm機銃は廃止となり、プロペラは直径は+10cmの3.15mへ大型化、プロペラ軸のスピナーは【彗星三三型】と同じタイプに変更となっています。
また【五四型】は翼内の内袋式防弾タンクがなくなっていて、自動消火装置だけとなっているようです。
内袋式防弾タンクが全然作れなかったから諦めたのだと思います。

さて肝心の性能ですが、昭和19年/1944年11月から開発が始まり、昭和20年/1945年4月に試作1号機が初飛行。
戦争末期にこの短期間での試作機完成はすごいですが、三菱は社内で「金星」搭載型【零戦】の研究を行っていたらしく、その成果が出ているのかもしれません。
結果、最大速度が572km/h、上昇力も6,000mに7分を切って到達するなど、【五二丙型】より大きく落ちていたパワーが改善。
武装強化や防弾性などが加わってかなりの重量となっていた【五二丙型】が、【五二型】同様のパワーで飛行できるというのはありがたい成果でした。
旋回性能などの使い勝手については【五二型】相当なのかがわかりませんでしたが、それなりには改善されているでしょう。
言うまでもなく航続距離は落ちていますが、もう本土防衛なので何の問題もありません。

いずれにしても【零戦】のメインとなっていた【五二型】の完全強化タイプがようやく誕生したわけです。
海軍はすぐさま【五二丙型】【五四型】への改造を指示し、また当時すでに生産の主流は【六二型】に移行していたこともあり、量産機は型番を新たに【六四型】とすることを決めました。
【零戦】最後の量産機です。

ところがすでに日本は本土爆撃を受ける有様で、ありとあらゆる軍需工場がターゲットにされていました。
「金星六二型」の生産は窮状の中でも比較的安定していたようですので、本土空襲が始まってから搭載が急ピッチで進むというのはほんとタイミングが悪いです。
結局【六四型】としては1機も完成することがなく、日本の、そして【零戦】の戦争は【五四型】の試作機2機によって幕をおろしました。

ちなみに完成したら善戦できたかと言われると、戦争という枠内なら絶対無理。
【六四型】の性能でも【F6F】に及びませんし、頑丈にはなりましたが、1機で10機倒しても足りないぐらいの時代です、全然、もう全然無理。

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