艦首の形状

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艦艇の艦首は年代や船体の種類、大きさによって異なる。
太平洋戦争時の日本海軍の艦艇では大きく4つの艦種が採用されていたので、それを紹介する。
なお、実際の艦艇写真で艦種部分が喫水線下までしっかり撮影されているケースは、建造中などのごく一時期に限られるため、本HPでは各メーカーが販売しているフルハルモデルのプラモデル画像も参考資料として使用させていただく。

シアー・フレアー

吹雪型駆逐艦 浦波
(オリジナルの写真が見つからず、二次加工作品を使用させていただいています)


艦首形状の前に、その説明内で使用する用語である【シアー・フレアー】について説明する。

【シアー】とは、写真の赤線の箇所を指す。
艦首部分の乾舷が徐々に上に反っているが、これは波が構造物に当たらないようにするための処置の1つである。

【フレアー】とは、写真の黄色線の箇所を指す。
上甲板付近で舷側を外に反らすことで、波に突っ込んだ際に波を左右に受け流す働きをする。

どちらも造波抵抗を抑え、凌波性を高める上で重要な構造である。
波の威力は馬鹿にならず、単純に突っ込むと構造物が破壊されるケースもままある。
また、凌波性は燃費の問題だけでなく、安定航行にも欠かせない。

日本の艦艇シルエットが美しいとされるのは、【シアー・フレアー】ともに大きく設計され、また速度重視の観点から船体そのものが長くスタイリッシュであったからである。

調べていただければわかるが、他国と日本の艦艇のデザインはかなりの違いがある。

クリッパー・バウ

フジミ 1/700 日本海軍 扶桑

【クリッパー・バウ】は、艦首部分がほぼ垂直に設計されていて、当時世界の多くの艦艇が採用していた一般的な艦首形状である。
大型艦は喫水が深い上、浮力確保スペースを維持するためにもこの艦首形状は理にかなっていた。
以後日本は凌波性や航行環境から、下記のような複数の艦首形状を採用していくことになる。

カッター・バウ スプーン・バウ

ピットロード 1/700 神風 + 甲標的

【カッター・バウ】もしくは【スプーン・バウ】(以後カッター・バウ)は、「峯風型駆逐艦」から採用された新しい艦首形状である。
かつて駆逐艦でも【クリッパー・バウ】が採用されていたが、大型艦に比べて船体の大きさで安定性を担保できない分、凌波性をより高める必要性が発生した。
そこで、より水切りを良くし、そこで発生した波が船体を傷つけない艦首形状が研究され、採用されたのが【カッター・バウ】である。
直線的なものと、ある程度曲線を描いているものがある。

【カッター・バウ】のカッターとは、小型艇のカッターボートのカッターである。

【カッター・バウ】は前述の【フレアー】を小さくでき、また甲板面積を小さくすることができて重量軽減にも貢献した。
しかし一方で、波に突っ込んだ際には波しぶきが構造物に直撃することもあり、特に砲撃時には大きな障害にもなった。

波しぶきを上げる、【カッター・バウ】を採用している【陸奥】


フジミ 1/700 日本海軍 長門

 

ダブルカーブド・バウ

フジミ 1/700 日本海軍 雪風

【カッター・バウ】の凌波性をより高めるために研究されて誕生したのが【ダブルカーブド・バウ】である。
【ダブルカーブド・バウ】は乾舷部分と喫水部分の曲率が異なる構造で、喫水部分は曲線を、乾舷部分はおおよそ直線を描いていた。
最初に資料として掲載している【浦波】の艦首形状も【ダブルカーブド・バウ】で、【ダブルカーブド・バウ】は強い【シアー・フレアー】と組み合わせることで最も効力を発揮した。
具体的には、喫水部分で発生した波を、【カッターバウ】より広くなった甲板を利用した強い【シアー・フレアー】で弾き返し、凌波性を高めるという設計である。

【ダブルカーブド・バウ】は速度重視の巡洋艦・駆逐艦で広く採用された、日本艦艇の最も特徴的な艦首形状である。
ただし例外的に、速度最重視となった【島風】は船体の大きさや建造技術の向上から、鋭角な【クリッパー・バウ】を採用している。
【クリッパー・バウ】は、【扶桑】【伊勢】の時代は全区間垂直が多かったものの、やがて【島風】のように全体に角度のついたものや、乾舷部分が前方に反っているケースも増えている。

ピットロード 1/700 日本海軍 島風

ピットロード 1/700
アメリカ海軍 コロラド

バルバス・バウ

タミヤ 1/350 スケール限定シリーズ 日本海軍 戦艦大和 特別パッケージ

喫水部分の最下部が球型になっている新しい艦首形状である。
日本では「翔鶴型空母」【大鳳】「大和型戦艦」【信濃】でのみ採用されている。
【大鳳】は厳密には「ハリケーン・バウ」と呼ばれるもの。)
技術の研究、提唱はアメリカであるが、軍艦に採用しているのは当時は日本の上記艦艇と、アメリカの「レキシントン級航空母艦」だけであったとされる。
今は多くの客船で【バルバス・バウ】が採用されている。

【バルバス・バウ】の仕組みとしては、大まかに言えば、通常航行で艦首が起こす波(+とする)を、それよりも突出している球体の艦首で意図的に波を起こし(-とする)、+と-で波を打ち消し合うという構造である。
艦首が起こす波と【バルバス・バウ】が起こす波は、設計されている喫水下では常に相反関係にあり、造波抵抗が格段に減少する。

【バルバス・バウ】の欠点は、その球体部分が海面より上に出てしまうと、余計な波を作り抵抗が増幅する点にある。
【バルバス・バウ】は設計時に求められた重量よりも軽くならない・浮き上がらないことが前提となっており、そのため往路と復路で大幅な重量差が生じる貨物船やタンカーでは採用されていない。
客船で広く採用されているのは、重量差はせいぜい人間の重量とその食料の増減程度だからである。

また、当時世界で軍艦に【バルバス・バウ】を採用する動きが乏しかった理由として、速度差による影響がある。
【バルバス・バウ】は速度差によってその効力が左右され、客船など巡航速度に比べてかなりの高速・低速で航行するケースが少ない船には適していた。
しかし軍艦は環境によって最大戦速や巡航速度、また微速など、目まぐるしく速度が変わる。
そのケースによって抵抗が変わってしまう【バルバス・バウ】は、軍艦への採用が躊躇されたようである。

日本はこの【バルバス・バウ】の位置や排水量などと抵抗の関係性を研究し、いつでも造波抵抗を可能な限り抑えることに成功したため、特に燃費を抑えて構造に余裕がある大型艦艇に採用した。
ちなみに当時の【バルバス・バウ】の形状は現代のものよりもかなり控えめで、現代の【バルバス・バウ】はさながら戦列艦時代の【衝角】を思い出させるほど前に突出している。