零戦開発物語 | 零戦と戦った戦闘機達 |
零戦+防弾性-Xのif考察 | 零戦と防弾性の葛藤 |
大前提として、型式の付番パターンを説明しておきます。
型式は2桁の数字で構成されますが、10の桁の数字が機体形状、1の桁の数字がエンジン型式を表します。
【三二型】の次が【二二型】になるのは、生産された順番ではなく、【二一型】の機体形状に【三二型】のエンジンが搭載されたためです。
零式艦上戦闘機五三丙型
全 長 | 9.121m |
全 幅 | 11.000m |
全高(三点) | 3.570m |
主翼面積 | 21.338㎡ |
翼面荷重 | 147.4kg/㎡ |
自 重 | 2,150.0kg |
正規全備重量 | 3,145.0kg |
航続距離 | |
発動機/離昇馬力 | 栄三一型/1,300馬力 |
上昇時間 | |
最大速度 | 583km/h |
急降下制限速度 | 740km/h |
燃 料 | 胴体:140ℓ 翼内:155ℓ×2+25ℓ+2 増槽:300ℓ |
武装/1挺あたり弾数 | 三式13mm機銃(機首) 1挺/230発 三式13mm機銃(翼内) 2挺/230発 九九式20mm機銃二号四型 2挺/125発 |
搭載可能爆弾 | 30kgもしくは60kg爆弾 2発 |
符 号 | A6M6 |
生産数 | 三菱:試作機1機 |
出典:
零戦秘録 零式艦上戦闘機取扱説明書 KKベストセラーズ 編:原勝洋 2001年
[歴史群像 太平洋戦史シリーズVol.33]零式艦上戦闘機2 学習研究社 2001年
零戦と一式戦闘機「隼」 イカロス出版 2019年
A6M5トA6M5~A6M7ノ主要ナル相違點 |
部 分 | 改造要領 | 記 事 |
主翼關係 | 翼内ニ13mm機銃增設及搭載爆彈增加ノタメ次ノ改造ヲ施セリ 1.肋材12~17間ノ前縁部ニ交換彈倉格納部ヲ設ケ串蝶番バネ止ピン式ノ蓋ヲ有スル コノタメ主翼外鈑ノ厚サヲ0.2~0.4mm增セリ 2.肋材11ヲ50mm内方ニ移シ(但シ後桁ヨリ前方ノミ)肋材11~12間ニ13mm機銃ヲ装備ス之ニ伴ヒ前桁壁鈑ニ孔ヲアケ前後面ヨリ當鈑ニヨリ補强シ中部肋材12ヲ氣密トセリ 3.肋材12~13、13~14間前縁部ニ爆彈懸吊装置ヲ設ケ後縁部ニ6番27號(又ハ1番28號)用懸簗取付金具ヲ装備セリ | A6M5Cヨリ |
尾翼關係 | 急降下制限速度增大ノタメ次ノ補强ヲ行ヘリ 1.水平安定板前後桁ノ鈑厚1.4ヲ1.6トセリ 2.胴體トノ結合金具ヲ鋼鈑製トシ結合ボルトノ徑10φ及12φヲ夫々12φ及14φニ增大セリ | A6M7ヨリ |
胴體關係 | ||
1.引起シ時ノ皺發生著シキタメ坐席側方ノ外鈑ノ厚サ0.5ヲ0.8ニ增加 | (第5404號機以降) | |
2.急降下制限速度增大ノタメ 胴體隔壁5~7間下面外鈑ノ厚サ0.5ヲ0.8及0.6トシ 胴體隔壁5~7間下面中央縦通材ノ板厚0.8ヲ1.2トシ 胴體隔壁7~13間下面中央縦通材ノ板厚0.8ヲ1.0トシ 胴體隔壁13及15ノ水平安定板桁管ノ材質並ニ寸度ヲ變更シ隔壁ノ板厚0.8ヲ1.0トセリ | A6M7ヨリ | |
3.降着時尾輪荷重ニ對スル强度增大ノタメ隔壁16ヲ補强ス | 第5604號機以降 | |
降着装置 | ||
1.主脚廻轉軸ヲ軸部肉厚6.5粍ヲ8粍ニ增加補强ス | 第 號機以降 | |
2.尾輪架構ノ材質「リ501」ヲ「チ504」トシ機體側及オレオ取付部耳金ノ厚サヲ增シ胴部厚サ4粍ヲ5粍トス | 第5604號機以降 | |
操縦装置 | 翼内13mm機銃ノ油壓装塡装置ヲ新設シタ | A6M5Cヨリ |
動力装置 | ||
1.發動機ヲ榮21型ヨリ榮31型ニ取換ヘ水メタ噴射装置トス、之ニ伴ヒ胴體内燃料タンクハ水タンクトナル | A6M6ヨリ | |
2.翼内タンクヲ(内外方共)内袋式防彈タンクトス | A6M5C 第 號機ヨリ | |
3.胴體内ニ内袋式防彈タンク新設シ不時放出弁ヲ設ク | A6M5C 第 號機ヨリ | |
兵装關係 | ||
1.13mm機銃ヲ翼内(肋材11~12間)ニ装備シ交換彈倉ヲ肋材12~17間ノ前縁部ニ格納ス(彈數240發×2) | A6M5Cヨリ | |
2.胴體内左舷7.7mm機銃を廢止ス | A6M5Cヨリ | |
3.翼前縁部下面ニ爆彈懸吊装置各舷2組ヲ装着シ3番3號各2個、6番爆彈各1個又ハ1番28號爆彈各5個ヲ懸吊可能トシ投下操作ハ索ニヨラズ電氣式トス | A6M5Cヨリ | |
4.胴體下面に25番爆彈搭載装置ヲ設ク | A6M7ヨリ | |
艤装關係 | ||
1.操縦席後方ニ防彈硝子並ニ防彈鋼鈑ヲ装備ス | A6M5C 第 號機ヨリ | |
2.電池ヲ21型ヨリ22型ニ積換ヘリ | A6M5Cヨリ | |
3.其ノ他酸素瓶、無電機、電池、防氷液タンク等ノ位置ヲ變更ス | A6M5C 第 號機ヨリ | |
飛行制限 | 急降下制限速度ヲ計器速度 節トス | A6M7ヨリ |
出典:零戦秘録 零式艦上戦闘機取扱説明書 KKベストセラーズ 編:原勝洋 2001年
(旧字含め可能な限り原文 A6M6は「五三丙型」相当)
まず、本機は少なくとも実戦投入は1機もされておらず、また完成した機体の数にもバラつきがあります。
【五三丙型】は【五二丙型】の機体に「栄三一型」を搭載しようとした機体です。
ただ数字の順番だとこっちがあとですが、計画の流れで言うと【五三丙型】のエンジンを「栄二一型」や「栄三一甲型」などに換装したのが【五二丙型】なので、【五二丙型】は【五三丙型】の失敗の末に誕生したわけです。
肝は何と言っても「栄三一型」です。
【五三丙型】はこのエンジンに関することで区切っておいて、他の【五二型】とどう違うかについては【五二丙型】で説明しています。
「栄」サイズでのやりくりから抜け出すタイミングを見失いここまで使い続けることになってしまったので、今度は2速過給機羽根車の増速比を増し、水メタノール噴射装置を装備した「栄三一型」が登場します(【隼三型】もこれと兄弟の「ハ115-Ⅱ」を搭載しています)。
このエンジンを搭載する代わりに武装も防弾性も強化させるという狙いだったのですが・・・。
水メタノール噴射装置は名前のまんまなのですが、まずメタノールは高高度で燃料が氷るのを防ぐために混ぜています。
そして何で噴射するかというと、めっちゃ簡単に言えばシリンダー内(エンジンルーム)の熱気に液体をぶっかけて冷やすためです。
エンジンは適切な冷却を行わなければノッキングなどのトラブルが起こり燃焼効率が下がります。
オクタン価が高い燃料を入手できるアメリカにとってはこのハードルはさほど高くないのですが、日本はオクタン価90ほどの燃料しか入手できなかったので、燃焼効率の向上とノッキング防止のためにこの装置が不可欠でした。
もちろん水メタノールを追加で搭載しないといけないので、胴体タンクが丸々水メタノールタンクに置き換えられています。
なので【五三丙型】は単純に燃料が減っているので、重量増とは別の理由でも航続距離が減っているのは間違いありません。
そしてこの効果というのは出力を底上げするのではなく、エンジンの環境をよくすることで今まで発揮できていなかった力が出せるようにするものでした。
なので水メタノール噴射装置を取り付けない「栄三一型」自体の出力は1,100馬力と、若干ですが「栄二一型」よりも落ちています。
ですが噴射装置が付くと離昇1,300馬力を発揮できると見込まれました。
低いオクタン価の燃料では90の力しか出ていなかったけど、水メタノール噴射装置を使ってできるだけ常に100に近づけよう、というわけです(数字はあくまで例えです)。
ですがこの水メタノール噴射装置の性能は当初不安定でした。
【隼三型】に搭載された「ハ115-Ⅱ」が大きなトラブルもなく次々量産されて戦地に赴いているので、果たしてこの両者にどのような違いがあったのか。
実は「栄三一型」の不調と同時期に【五二型】のプロペラが壊れるという事故が多発し、原因がエンジンの遊星歯車にあることが発覚。
これだけなら対処すればいいじゃんで済むのですが、その対処をするメンツがなんと「栄三一型」審査担当者であったことから、肝心の「栄三一型」の審査や問題のチェック、改善が全部停滞してしまいます。
不幸が重なった結果、水メタノール噴射装置は「調整が困難かつ実効がほとんど認められないどころか性能低下の一因ともなる」とまで言われてしまいます。
しかし実際はその不調もちゃんとコントロールできるほどの問題だったらしく、これが本当なら明らかな風評被害です。
諸元の583km/hも実験機性能表に記録されている高度6,000mでの速度です。
その上時期が時期だけに【五三丙型】投入が急がれ、急場をしのぐために「栄二一型」とかを搭載した【五二丙型】が登場。
【五三丙型】の開発は一時頓挫、その後「栄三一型」の取り組みは再開されたものの結局試作機1機が確実に存在した以外はどのような状態で終戦を迎えたのかは不鮮明です。
ちなみに【五三丙型】は【五二丙型】の胴体内燃料タンクに取り入れられるはずだった内袋式防弾タンクが翼内タンクでも採用されるはずでした。