零戦開発物語 | 零戦と戦った戦闘機達 |
零戦+防弾性-Xのif考察 | 零戦と防弾性の葛藤 |
十二試艦上戦闘機
全 長 | 8.79m |
全 幅 | 12.00m |
全高(三点) | 3.49m |
主翼面積 | 22.438㎡ |
翼面荷重 | 104.4kg/㎡ |
自 重 | 1,652kg |
正規全備重量 | 2,343kg |
航続距離 | |
発動機/離昇馬力 | 瑞星一三型/780馬力 |
上昇時間 | 6分15秒/5,000m(推定) |
最大速度 | 約500km/h |
武装/1挺あたり弾数 | 九七式7.7mm機銃 2挺/700発 九九式20mm機銃一号二型 2挺/60発 |
搭載可能爆弾 | 30kgもしくは60kg爆弾 2発 |
符 号 | A6M1 |
生産数(三菱のみ) | 試作1、2号機(以降実戦投入) |
設 計 | 三菱 |
設計責任者 | 堀越二郎 |
出典:
[歴史群像 太平洋戦史シリーズVol.33]零式艦上戦闘機2 学習研究社 2001年
零戦と一式戦闘機「隼」 イカロス出版 2019年
零式艦上戦闘機の装備と性能
完成した【零戦】の評価は、本当に多種多様です。
手放しでほめそやすものもあれば、辛辣な意見も珍しくありません。
【零戦】は速度は確かに遅いほうでしたし、特に急降下性能は悲惨なものでしたが、この時代はまだドッグファイトが普通の戦い方とされていて、軽快で小回りをきかした格闘性能で相手を凌駕しようという考え方は別におかしくありません。
【零戦】は「九七式戦闘機」「一式戦闘機『隼』」「二式戦闘機『鍾馗』」との陸海軍の性能コンテストでも、各スペックに劣る面があっても総合的には【零戦】に大きく分がある戦いができたと言われています。
またパイロットが操縦しやすいというのは重要な点で、これは数字ではなかなか表せません。
攻撃に全振りして防御意識の欠片もなかった【零戦】ですが、総合的な性能がよかったからこそ他国の戦闘機を翻弄し、そして【零戦】に勝つために一撃離脱戦法やサッチウィーブに発展したのです。
この時代はもう各分野の成長が著しく、万能機を造るというのは難しくなっていました。
速度を求めれば運動性能は落ちるし、頑丈性を求めればやはり運動性は落ちます。
運動性を求めればサイズの問題でエンジンにも支障が出るでしょうし、【零戦】のように極端な軽量化も止むを得ません。
陸軍では軽戦闘機と重戦闘機の区分け、また海軍でも新たに局地戦闘機という用途など、航空機の扱いや性能は万能から特化型に変わろうとしていました。
その最後の万能機【零戦】の性能を紹介していきましょう。
航続距離
他国との比較が入る場合はできるだけ時代が合うようにしています。
また【零戦】において議論されがちな点については別ページにて公開しています。
【零戦】はその戦闘力の高さも当然ですが、とにもかくにも単発戦闘機として破格の航続距離を持っている点が多分一番有名じゃないでしょうか。
ただ艦載機と言う性質上、実は長大な航続距離と言うより長滞空時間を誇る戦闘機と伝えるほうが本質的です。
「十二試艦上戦闘機計画要求書」では「高度3,000mで公称馬力で1.2乃至1.5時間」という「航続力」を要求されていて、決して最初から遥か彼方まで飛んでいける戦闘機を、と考えられていたわけではないのです。
ただ滞空時間が長いということはそれだけ遠くまで飛べるということで、結果的に遠距離遠征にバンバン使われることになります。
初めて制式採用された【零戦一一型】は、燃料過積載(つまり最大搭載)時の航続距離が2,222km(燃料タンク525ℓ)、落下式増槽(330ℓ)の燃料を満タンにすれば3,502kmとなっています。
【二一型】は【一一型】のような明確な数値として記録されていませんが、燃料タンクも同じ、構造も空母運用の可否だけなので大差はないでしょう。
そう考えて他国の同時期の単発戦闘機(可能な範囲で初期型を選定)の航続距離と比較してみましょう。
ちなみに艦載機はアメリカのF型番だけです。
国/戦闘機 | 航続距離 |
日本/零戦一一型、二一型 | 2,222km・増槽込3,502km |
アメリカ/P-40 | 1,529km |
アメリカ他/F2A-3 | 1,553km |
アメリカ/F4F-3 | 1,360km・増槽込2,285km |
ドイツ/Fw190 A-3 | 最大1,000km程度 (派生も多岐にわたるため正確なデータ不明) |
イギリス/スピットファイア Mk.1A | 925km |
イタリア/MC.200 | 570km・増槽込870km |
フランス/D.520 | 1,240~1,540km |
(ドイツのBf109は初期型が若干古いため除外。スピットファイアも古いがイギリスでスピットファイアを欠くわけにはいかない)
一目瞭然ですが、【零戦】独り勝ちです。
もちろんこの後各機種も派生により航続距離を伸ばしたり減ったりしていますが、増槽込み3,000km超えは圧倒的です。
ヨーロッパは地理的要因から3,000kmなんて無用の長物ですが、日本と同じく太平洋や島々での活動となるアメリカの戦闘機でもこの程度なので、【零戦】がどれだけ広範囲で活動できるかがわかりますが、いくらなんでも長すぎる。
アメリカの【F4F ワイルドキャット】も同じ艦載機ですが、これでも十分すぎるぐらいです。
艦上戦闘機として広い太平洋を拠点にする以上、やはり広範囲の制海権を取ることが非常に有利になるため、航続距離は長いに越したことがありません。
レーダーがない当時としては遠距離で敵を見つけるには行動範囲を広くするしかありませんでした。
同時に滞空時間が長ければしょっちゅう離発着する必要がなく防衛の空白時間を減らすことができます。
攻めだけでなく守りの面では、航続距離が短いと燃料切れで陸地や母艦にたどり着く前に墜落してしまう危険があります。
航続距離を伸ばすというのはパイロットの命を守るためでもありました。
増槽に関しては<機体の設計>でも述べていますが、機体の下部に落下式増槽を装着。
巡航時はここの燃料を使って飛行し、戦闘などの有事に入ると邪魔になるためにこいつを落下させて俊敏な動きを取れるようにするという方式でした。
ですが【零戦】の巡航速度(260~333kmとバラバラでわからん)から逆算すると、【零戦】はスペック上、連続10時間以上の飛行が「できてしまう」飛行機とも言えます。
つまり機体のスタミナが凄すぎて、パイロットが先にへばってしまうのです。
特にラバウルからガダルカナル島への遠距離爆撃を行う【一式陸上攻撃機】の護衛として出撃が目立った昭和17年/1942年後半は、なまじっか【零戦】が3,000km以上飛べてしまうために片道1,000km以上の戦場に無理矢理駆り出されました。
しかも帰りの燃料を考えると戦地で15分ぐらいしか戦えず、行きで消耗する体力、戦闘で消耗する体力、そして帰りで消耗する体力、加えて行き帰りの誘導機はないため、分隊以下の単位で自力で戻る航法の実施、これらを全て計算に入れた上での出撃をしなければならないという地獄を味わっています。
行きは進路を見失うと引き返すことができますが、最も体力や集中力が切れている帰りに風力なり風向きなり太陽の位置なりを全部確認しながら正確な方角を維持しなければならないので、その苦労ははかり知ることができません。
なので洋上航法の習得は自らの命を救うために必修の技術となりました。
このように強すぎる武器というのは分不相応な役割も与えてしまうというデメリットもありました。
アメリカの艦載機だってやろうと思えば【零戦】並の航続力を持たすことはできました。
ただ人間はそんな頑丈じゃねぇってことで、そんな無駄な能力を備えていないだけです。
そして「ガダルカナル島の戦い」はこの分不相応な手段でしか戦えないという最悪のケースに持ち込まれた上に、時期的に航続距離が足りない【三二型】の移行期とも重なってかなり苦難の時代でした。
速度
日本が世界の航空機に対して圧倒的に後れを取っていたのが、エンジン開発、すなわち高速化でした。
他に上昇力や燃費などにも影響してくるエンジンですが、【零戦】は高度4,000mで500km/h以上を超えることが求められ、当初は「瑞星一三型」、のち「栄一二型」に換装することでこの条件をクリア。
【一一型】では517.6km(高度4,300m)を記録しており、下記の通り当時の戦闘機の速度帯にはなんとか滑り込んでいます。
しかしエンジン性能が他国に比べて劣っているし、他の要求も窮屈だったため、エンジン以外の力でも速度アップを助けなければなりませんでした。
そのためにg単位の減量を徹底し、ひたすらに軽くすることで速度アップにつなげたのです。
場所によっては押し込むだけでベコベコいう機体で、逆にこんなにペラペラでも空気力学などに沿って設計されればアクロバット飛行もできるし敵にも撃ち勝てるんだというのが実感できる存在でもあります。
【零戦】の噛ませ犬になるのもかわいそうなので、先ほど航続距離で比較した各機体の最大速度も紹介しましょう。
計測高度や重量が各機体によって違いますのでそこはご理解ください。
国/戦闘機 | 最大速度 |
日本/零戦一一型 | 517.6km/h |
アメリカ/P-40 | 575km/h |
アメリカ他/F2A-3 | 516.6km/h |
アメリカ/F4F-3 | 531km/h |
ドイツ/Fw190 A-3 | 610~660km/h |
イギリス/スピットファイア Mk.1A | 582km/h |
イタリア/MC.200 | 512km/h |
フランス/D.520 | 529km/h |
こう見るとやはり決して優速ではありませんが、このタイミングで500km/h以上を記録していたのはギリギリセーフだと思います。
とりあえずこれだけあれば本来の獲物である爆撃機に振り切られることはありません。
また速度とは少し違いますが、【零戦】は速度は並以下の代わりに加速力が非常に高い利点がありました。
これがどう役立つかというと、まず戦闘中に背後を取られると旋回したり上昇急降下などで逃げようとしますが、この時に当然速度が落ちます。
速度が落ちれば【零戦】としてはこっちのものなのですが、その後もし敵が一直線に速度を上げて逃げ出そうとしても、加速力があれば【零戦】にとってはしばらくついていける上に、敵の激しい動きが減るので逆にチャンスになります。
【零戦】は格闘性能が高いため基本的には相手のフェイントなどにはちゃんと食らいつくことができる上、この加速力もあることでさらに格闘性能を高めているのです。
上昇力の高さと加速力の高さ、そして他国を圧倒する身軽な動きで、一度くらいつくと徹底的に執着することができます。
武装と戦闘能力
【零戦】はアメリカの機体が7.7mm機銃や12.7mm機銃を武器にしている中、機首に7.7mm機銃、両翼には20mm機銃とかなり大きな機銃を搭載していました。
イギリスのヴィッカース社製のライセンス生産毘式七粍七固定機銃を国産化させた九九式七粍七固定機銃は1挺700発と十分な弾数がありましたが、【零戦】開発が始まる1年前に、実験の中で入射角が10度以下になると全金属の機体になるとほとんど貫通しないという問題に悩まされていて、別の口径の機銃搭載が必要とされていました。
そこで新たに採用された九九式二〇粍機銃は、スイスのエリコン社製の20mm機関砲のライセンス生産品で、海軍戦闘機の最もメジャーな武器になりました。
大口径というのはそれだけでも魅力の1つですが、こいつの魅力はそれ以外にも「軽い」ということがありました。
【F4F ワイルドキャット】などアメリカ戦闘機の主力機銃となったブローニングM2 12.7mm機関銃は現代でもまだ改良を加えられて現役という超優秀機銃ですが、この時の12.7mm機銃はベルト式給弾ということもあって約28kgもあります。
対して20mm機関砲は23kgと、大口径なのに12.7mm機銃より軽いというのは、後述の問題点を含めても当時の要求を満たす機銃としては申し分ありませんでした。
こればっかりは独断専行で導入をした海軍に先見の明があったと褒めざるを得ません。
しかし軽いには軽い理由があります。
この九九式二〇粍機銃ですが、初期の20mm機銃二型はドラム式の弾倉に60発しか入らず、両翼合わせて120発しか発射できませんでした。
こんな弾数だと迂闊にダーって撃ち続けるとすぐ撃ち止めになりますので、まさに下手な鉄砲では困ります。
他に初速の遅さ、すなわち精度の悪さも問題となったため改良が進み、やがてベルト式、初速が600m/sから750m/s、弾数も最大125発にまで増強されています。
このベルト式に改造できたのは九九式二〇粍機銃だけで、エリコン製の本家本元は結局ベルト式まで改良を進めていません。
他には超軽量の機体にさらにGがかかりながらの射撃になることから、予測弾道よりも機銃が下を向いているのではということから、あらかじめそれを補正するために銃身の角度を調整するなどの工夫で問題を解決しています(解決は昭和17年/1942年秋ごろに前線で行われたのでなかなか時間がかかっています)。
なぜ12.7mm機銃ではなく20mm機銃を採用したかですが、敵戦闘機はともかく大型の爆撃機などは7.7mm機銃ではなかなか落とすのが難しいし、相手も双発なり4発機だと速度も速いため、中途半端になりかねない中口径の機銃よりも高威力の機銃で一発で致命傷を与えることが求められたためです。
エースパイロットであった坂井三郎をはじめ、設計時や実戦投入後も20mm機銃採用に対する不満の声はありましたが、機銃の改良と、「グラマン鉄工所」とまで言われた【F4F】【F6F ヘルキャット】、大型の双発機などにも確実な致命傷を与えることができるため、20mm機銃によって【零戦】はずっと戦い続けることができたと言っていいでしょう。
【B-17】に対しても効果はありましたが、なにしろ「空の要塞」相手ですからこいつには20mm機銃であっても撃墜を狙うには接近戦を仕掛けるしかなく、かなり危険な任務でした。
この20mm機銃を巡っては、初速不足による制度の悪さや、「小便弾」と言われた銃弾の減衰が目立つことが悪評として今も言われています。
7.7mm機銃で穴だらけにして撃墜するか、20mm機銃で強烈なストレートを叩き込んでKOするか、これはパイロットによりけりでしょう。
機銃の射程は200mほどが一般的で、装備された九八式射撃照準器も200mが収束点とされています。
もちろんそれ以上飛びますが、照準器を使って射撃をする以上200m以上先は狙って命中させることが極端に難しくなります。
この照準器を使って射撃をする際、銃弾の大きさ、照準器の使い方と2つの機銃の配置を考えると、20mm機銃のほうが弾道が下がって見えやすい、ということがわかります。
これを書き出すとまた長いので簡単にしますが、まず20mm機銃の銃口は7.7mm機銃よりも低い位置にあるので銃弾は若干上方に飛びます。
加えて命中しなかった弾(特に曳光弾)は上から下にヒューっと落ちていくように見えます。
200m先に到達する前に重力などで急激に減衰することはありませんが、500mとかそれ以上先になると7.7mm機銃よりも明らかに落下していくのがわかりますから、外れた銃弾が全部狙いより下に飛んでいっている、つまり銃弾が全部垂れていると錯覚してしまうのです。
7.7mm機銃は弾数が多いし曳光弾が遠くまで見えにくいので、どっちも外れていても20mm機銃のほうが命中率が悪いように見えるんですね。
他にもいろいろ説明や考えられることがありますが、目の錯覚である程度説明できるのは事実です。
こうなると二号以降も命中率はイマイチのままだった、ということになるのですが、どうなんでしょうね。
この機銃を用いた格闘性能が、【零戦】もう1つの持ち味です。
「ゼロとドッグファイトを行うな」「味方戦闘機3機の場合は戦ってよし」「積乱雲とゼロに遭遇した場合は退避せよ」
【零戦】の弱点を見つけるまで徹底されたアメリカの標語と言ってもいいでしょう。
格闘性能とは簡単に言えばどれだけ身のこなしが軽いか、どれだけ操縦桿がパイロットの要求に応えてくれるかです。
この点において、【零戦】はある条件を除けば天下無敵と言ってもいい働きを見せてくれました。
徹底した軽量化と「剛性低下方式」による安定した操作感により、少なくとも乗る側の評価は上々でした。
操縦桿の「剛性低下方式」のおかげでどのような動きでもしっかり要求に応えてくれますし、機体の安定性も抜群でした。
低速の操縦性と安定感においては右に出るものはおらず、まさにドックファイト向けの機体でした。
【零戦】は小型ですが爆弾も搭載可能です。
搭載時は両翼に特設爆弾架を取り付け、1基あたり30kgもしくは60kg爆弾を搭載可能でした。
爆弾の威力は大したことありませんが戦闘機に搭載する爆弾なんてこんなもんです、250kg爆弾とか搭載するのは戦闘機の役割が変わってからです。
またこれは武装というより装備品ですが、【零戦】には九六式空一号無線電話機が備わっていました。
無線機については門外漢もいい所ですし、証言とか評価もホントにバラバラなので腫れ物に触れる気分ですがちょっとだけ。
評価は使用環境も含めてばらっばらで、坂井三郎がまともに使えねぇから重いだけだし外した的なことを言っている一方で、特に空母運用の【零戦】などでは無線やクルシー、モールスなどメインの通信はちゃんと使えているようです。
製品の精度が悪いのもあるようですが、高温多湿に弱いというのは戦地を見てもわかるようにかなり大きかったようです。
他にも障害物が多いとダメなのか、いろいろ考えられますが、ちゃんといい環境だと役には立っていたようです。
まぁこういう類のマシンが戦地で使えるかどうかわからないのって致命的なんですけど。
九六式空一号無線電話機の受信方式はスーパーヘテロダイン式と再生検波式を両方取り入れているのですが、旧式になりつつあったこの再生検波式は単純構造で軽く作れる一方で、調整が難しいことや不安定などデメリットが多く、この点も環境の影響を大きく受けたと思われます。
弱点
【零戦】の弱点といえば、急降下速度が遅いとか、高速になるにつれて操縦桿がめっちゃ重くなってロールが悪くなり動きが緩慢になるとかが一般的に言われるものだと思います。
防弾性がないという弱点はもはや語るまでもない、【零戦】の代名詞なのですが、防弾性に関しては別で取り上げておりますのでここでは触れません。
個別の弱点として語られがちなこの要素ですが、実は全部一連の動作に関連しています。
【零戦】を振り払う手っ取り早い方法が、最大速度で急降下することでした。
一撃離脱戦法というやつです。
これほんと【零戦】の弱点に刺さりまくってる攻撃方法です。
連合軍は【零戦】との戦いや鹵獲機のテストを経て、急降下に対して【零戦】が脆弱なこと、速度が上がれば上がるほどロール(横回転)が悪くなっていくことを知ります。
そしてこれを踏まえ、【零戦】とは1対1の戦いをせず、上空から槍のように高速で突っ込んで攻撃をし、背後が取れない場合はとにかく速度をあげることが徹底されました。
まず急降下についてですが、【零戦】は二度の飛行事故により当時の研究以上に急降下に対して脆弱であることが発覚し、また補助翼の動作を助けるバランスタブが廃止になったことで急降下制限速度が630km/hと決められていました(型式によって都度改善)。
急降下速度はあくまで指標の1つですが、当時の戦闘機の中ではかなり遅いほうであることに違いありません。
630km/hというのは【F4F ワイルドキャット】の772km/hと雲泥の差ですから(ただし総合的な性能においてアメリカは【F4F ワイルドキャット】と【零戦】の急降下性能に大きな差はないと結論を出しているようです、ちょっと甘め?)、余計なことはせずに一目散に下に向かって突っ込めば【F4F ワイルドキャット】が【零戦】に捕まることはありません。
また一撃離脱の場合、敵機は基本的にトップスピードで突っ込んできますが、【零戦】はもちろんそんなに高速で飛行していません。
攻撃をかわして追撃しようとしても、700km/hの速度を出している相手に300km/h前後(色んな意味で【零戦】はこの速度帯までが基本速度)から急降下して630km/hの限度速度で追いかけるわけです。
単純な速度差以外に加速も必要な【零戦】に追いつけるわけがありません。
続いてロールの悪さです。
主翼についている補助翼というのは、主翼を上下させるためのもので、フラップ、昇降舵、方向舵とともに機体を立体的に動かすために欠かせないものです。
しかし【零戦】は格闘性能や離着陸の距離の短さをかなり重視したことで、揚力を稼ぐ設計、つまり翼面荷重を小さくせざるを得ず、速度が上がれば上がるほどどうしても翼が抵抗を大きく受けてロール性能が悪くなってしまうのです。
これを改善するためにバランスタブが追加されたのですが、事故により取り外されたのは前述の通りです。
このため低速帯の軽快さは高速帯になると途端に消え失せ、強烈な抵抗を受けるため補助翼を動かす操縦桿が劇的に重くなるため、全く性質の異なる機体に様変わりしてしまいます。
そしてこのロールの悪さは急降下性能の悪化を併発します。
急降下という言葉だけだと、水平飛行から操縦桿を倒してそのまま真下にグーっと落ちていくと思われる方もいるかもしれません。
しかし実際の急降下はそんな単純な動きではなく、プラスG(上がるG)とマイナスG(下がるG)の機体強度とか、そのまま落下すると揚力が邪魔するけど背面飛行すれば逆に失速するのでそれを降下に利用するとか、いろんな合理的理由により横に1回転しながら落下していきます。
ですが【零戦】の場合は急降下制限速度の問題に加えて、この急降下に入るための初動であるロールの悪さがダブルでマイナス要素となっているため、単純な速度制限だけでなくまず急降下に入るまでに「どっこいしょ」が入ってしまうのです。
そしてようやく急降下に入ったとしても高速時の操縦桿の重さがまた影響してきます。
急降下というのはもちろん超高速で落下しますから、操縦桿は激重なわけで、つまり急降下中の方向転換がほとんどできません、イノシシ状態です。
だから例え敵をそこそこの距離で追いかけていたとしても、敵はスッと方向転換できますが、【零戦】は操縦桿が重すぎて最短距離でそれに追随できないのです。
もちろんそんなことをしている間に敵はまた上昇して次の一撃の準備に入っているでしょう。
つまり、
1.敵の上空からの攻撃をかわして追撃をしようにも、ロールが悪いため急降下の態勢に入るのに他国の機体よりもタイムラグがある。
2.急降下制限速度が敵機に劣るためまず絶対追いつけない。
3.高速急降下で舵がめちゃくちゃ重いため、この間【零戦】の身動きは非常に悪く、敵の動きに追随できない。
ということです。
こう見ると理論的には【零戦】で一撃離脱戦法相手に馬鹿正直に追いかけまわしてもまーったく意味がないことがわかります。
主翼が11mに短くなりロールの改善が評価され、急降下制限速度も速くなった【三二型】や【五二型】ではまだチャンスはあったでしょうが、【二一型】【二二型】はやるだけ無駄です。
【三二型】【五二型】含めて、カリカリせずにまた頭を狙うために上昇していく敵機に優れた上昇力で嚙みつきに行くのが恐らく有効な手段だったでしょう。
トータルでは【零戦】は中低速、中低空で強烈な強さを発揮し、高速すべてに弱い戦闘機だと言えます。