「零戦」に防弾性を与えた代償 | 大日本帝国軍 主要兵器
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「零戦」に防弾性を与えた代償(想像だけ)

零戦開発物語零戦シリーズ制覇
零戦と防弾性の葛藤零戦と戦った戦闘機達

「零戦」の高速時のロール(横回転)の悪さや急降下制限速度についてはあくまでオマケ、「零戦」最大の問題は防御力が皆無であるところとか、人命軽視だとか言われがちです。
たぶん「零戦」の評価が最も割れる要素がこれではないでしょうか。

個人的には、防弾性がなかった根本的な原因は「エンジン」にあり、人命軽視については設計時はしゃーない、戦争始まってもそのままはクソ&「雷電」が悪いというところです。
でも人命軽視論もしゃーない論でも、じゃあ最初っから防弾性があったらどうなってただろう、という突っ込んだ話は見当たらないのです。
それなら考えてみるべと、余計な火種にならないことを願いながら現実の「零戦」を頭の中で改造してみます。

あくまで【現実の零戦】ですので、全く別物の「零戦」は考慮しません。

大前提

これは全てのパターン共通の条件です。

・ベースは現実の「零戦二一型」とし、重量約2,400kgをオーバーするような改変はなしとします。
・備える防弾性は「一式戦闘機『隼』一型」と同等の7.7mm機銃対応の自動防漏タンク装備とします。
・エンジンは「栄一二型」とし、他のエンジンと変更はしません。
・防弾性強化による重量アップ分を、「速度」「格闘性能」「航続距離」のいずれかを犠牲にして軽量化し、項目によってはそのほかの性能も抑えます。
・字数削減のため「速度=S」「格闘性能=F」「航続距離=L」という略称を付けます。
・各分野で発生する個別の前提条件を踏まえて考えます。
・私はミリオタでもないしメカに詳しいわけでもないですし何の専門知識もありません。これはごった煮の知識を繋ぎ合わせた妄想にすぎません。

S(速度)を落とした場合

<前提1>自動防漏タンクを装備したことでタンク容量が減るため、翼内タンクをもっと広くして搭載総燃料を維持します。
<前提2>この結果翼内重量が増えるため、それに対応するために主翼の強度を高めます。
<前提3>Fを維持するため、主翼面積(+最低限の機体の大型化)は大きくとります。
<前提4>ここまで重量が増えることばかりなので、胴体などの重量、強度を削り、強度以上の速度を出せないように帳尻を合わせます。

流れとしてはこんな感じです。
<前提4>をもう少し詳しく書くと、例えば全力で500km/h出せたとしても空中分解しちゃうから480km/h以上出せなくする、みたいなことです。

もしこいつが完成したとしたら、少なくとも性能的には「二一型」ぐらいが活躍していた時代と大して変わらない活躍ができたかもしれません。
ただし、実際にこの「零戦」が制式採用されることはないと思います、というか完成させられないと思います。
「あったらどうなったか」という空想なのに初っ端から不可能とは・・・。

まずS下げには実は重要な出来事が関わってきます。
それは、下川大尉が死亡してしまった「十二試艦戦」2回目の事故です。
あの事故のあと、「零戦」は強度改善の為に主翼を0.1mmだけ厚くしましたが、そのおかげで「二一型」は勝手にSが上がったのです。
<前提2>の主翼強度アップがこの出来事と同じ効果を生み出すとすれば、S下げの仮定でも劇遅になることはないのではないでしょうか。

しかしS下げ最大の問題は<前提4>です。
S下げは重量を減らすのがかなり難しく、頭の中でブロックを組むだけのお話なのに一番無茶な改造なのが一発で分かります。
翼が大きく重くなるのに重量を減らさないといけないので、削れる部分は胴体しかありません。
でももともと削ってるのにもっと削るとなると、速度を度外視し、まずは一般的な飛行をしても支障をきたさないギリギリまで強度を削るしかなくなります。
なので最高速度はちょっと遅くなるどころではなく、劇的に遅くなります。
速く飛ぶと壊れるからです。

機銃を12.7mmに換装することも考えました。
しかし「零戦」九九式二〇粍機銃は本体重量が約23kg、対して「隼」が搭載したホ103(一式12.7mm固定機関砲)はこれまた23kgなのです。
ベルト式給弾だからドラム式の九九式よりちょーっとだけ翼の厚みを薄くできるかもしれませんが、燃料が増えた分を支える関係上大幅なメリットにはならないでしょう。
なので機銃の口径を下げても効果はないのです。

こうなると、最大速度=急降下制限速度というとんでもない事態になります。
上昇速度についてもかなりの制限が発生するでしょう。
いくら急降下に弱い「零戦」と言っても最大速度以上の急降下はできますが、S下げ「零戦」は緩降下すらビクビクする戦闘機になったと思います。
大前提を逸脱してしまいますが、S下げの場合はエンジンを小さく、軽くするのが最も現実的な手段です。
「九六式艦上戦闘機」「九七式戦闘機」の「寿」を搭載して、現実の「零戦」を凌ぐほどの軽量化が必要ではないでしょうか。

ここまで書いてますがたぶんこの機体だとFも相応に落ちるし、絶対こんな飛行機誕生しないのですが、まぁ空想だからFも維持して誕生したとして話を続けましょう。
で、こいつで戦っても現実と変わらないんじゃないかと言う件ですが、低速帯のドッグファイトは500km/hも必要ないからです。
もちろん爆撃機などを落とすという面では速い遅いは大いに関係ありますが、艦載機を相手にするとして「SBD」「TBD」もそんなに速くないから500km/h切ってても追いつけます。
それに「零戦」は高速性能が悪く、380km/hから補助翼の操作性が悪化、500km/hを超えると補助翼は激重になり、まともに横回転ができません。
せっかく500km/h以上の速度が出ると言っても、その使い勝手はよくなかったし、戦闘においても500km/hを全面的に押し出す戦い方をしていなかったので、少々速度が落ちたところで影響は少ない、という考えです。
そしてFは落としていない前提ですから、ドッグファイトになれば現実通り「零戦」も十分戦えるということで、別に低速でもなんとかなるんじゃないの、というわけです。

もちろん一撃離脱戦法などを使い始めたら何にもできません、この辺りも現実と全く一緒です。
ということで、S下げ「零戦」は、もしかしたら同じぐらい戦えたかもしれないけど、「栄一二型」を搭載するのなら危なすぎて現実性がない、エンジンを「寿」にするぐらいの荒療治が必要ではないか、という結論でした。

F(格闘性能)を落とした場合

<前提1>自動防漏タンクを装備したことでタンク容量が減るため、翼内タンクをもっと広くして搭載総燃料を維持します。
<前提2>この結果翼内重量が増えるため、それに対応するために主翼の強度を高めます。
<前提3>速度を維持するために主翼面積をギリギリまで絞り、主翼を最初から50cm短くします。

こっちはS下げと違って簡単です、明らかに現実の「零戦」の劣化です。
まず燃料タンクの大型化から、<前提3>の主翼面積の減少もかなりシビアだと思います。
なんとか頑張って減らしても、翼面荷重が増えたことで発艦時の滑走距離が増え、また着艦時の速度も速くなりますから艦載機運用としての難易度は上がります。
主翼の強度が上がり、また主翼の長さも短くなっていますから、高速時のロールはちょっと改善されるでしょうけど、優秀だった低速時の旋回性は相対的に悪くなります。
「零戦」には空戦フラップがないので、補助翼やバランスタブなどを駆使してできるだけ悪化を軽減させるしかないでしょう。

で、いざF下げ「零戦」で戦いを挑んでみたとしましょう。
戦闘時最大の武器であったF性能が落ちたことで、現実の「零戦」では勝てた相手にも確実に苦戦を強いられます。
Fの悪い敵機に対して、異常なほどFステータスが高い「零戦」だったから存分に暴れまわることができたのであって、F下げ「零戦」は敵機からしたらフツーの戦闘機でしかありません。
百歩譲って互角です、優位に戦うなんて無理です。

そもそもSを確保するということは、当時の戦闘機の戦い方を速度を活かしたものに変えなければなりません。
「三二型」の544km/hよりは速いでしょうが、Fを捨てたのにこれまで通りのドッグファイトを行うようでは宝の持ち腐れです。
日本側が一撃離脱戦法を先に繰り出すぐらいの抜本的な改革がなかったとしたら、F下げ「零戦」は現実よりも確実に戦果が落ちます。
しかもその急降下速度だって667km/h前後では「F4F」の772km/hに追いつけるわけもなく、一撃離脱戦法でも有利かと言われるとそんなわけもないんですよね。
「支那事変(日中戦争)」ではさすがに相手が古いので戦えたでしょうけど、このタイプだと航続距離がちょっとおかしくてそこそこ速い戦闘機って感じで、近接戦向けではありません。
どっちかというと強襲偵察機向きですね。

L(航続距離)を落とした場合

<前提1>自動防漏タンクを装備したことでタンク容量が減ります。

前2つに比べてシンプルなのがこのL下げです。
重量の増減を燃料の増減で調整する、ただこれだけです、断トツで実現性があります。
しかし航続距離があるおかげで「零戦」は重慶爆撃、台湾→フィリピン、ラバウル→ガダルカナルへと飛ぶことができました。
これらはいずれも「零戦」の活躍を物語る上で欠かすことのできないものです。
なのでL下げの場合、太平洋戦争の作戦で参加できなかったものがあるのか、という点で考えることになります。

L下げについては概算が成り立つので、他の2つよりもまだ説得力はあると思っています。
「二一型」のLは2,500km+全速30分となっていてこれでは計算が難しいです。
Lについては大半がこのような性能で記録されていて、巡航速度のみのLも肝心の巡航速度が各バージョンで揃っているのかがわからないので今回は却下。
「一一型」はLが3,502kmとなっているため、頭の悪い計算ですが2,500km+全速30分=3,502kmとして、全速30分=L1,000km相当としましょう。

「一一型」は普通の翼内タンクと胴体タンク、そして増槽込みで855ℓの燃料を搭載していました。
で、「隼二型」が7.7mm対応から13mm対応の自動防漏タンクに変更した際に燃料が36ℓ減りましたから、855ℓ-36ℓは成り立ちます。
ただし「零戦」「隼」はそもそもの翼内タンクのサイズが異なり(「隼」には翼内タンク「しか」ありません、胴体内タンクなしです)、重量の比較ができないのでこれ以上のマイナス計算は難しく、とりあえず多めで819ℓになったとしましょう。

855ℓで3,502kmですから、約4km/ℓなので、819ℓになればLは3,276kmです。
なので「二一型」の表記に揃えるとすると、L下げ「零戦」は2,276km+全速30分と概算は出せます。

まぁ自動防漏タンク重量なども考えると2,000~2,200km+全速30分程度でしょう。
「隼一型、二型」の性能比較をすればもうちょっと計算ができる可能性がありますが、「一型」「二型」で使用しているオクタン価が違っているためここらでお終いにしておきます、遊びは適当にしておかないと。

本題ですが、2,200km+全速30分でどれだけのことができたか。
まず片道900kmほどの漢口→重慶爆撃ですが、数値上は可能ですがほとんど余裕がありません。
この辺りは現実の「零戦」がラバウル→ガダルカナル島の飛行のあとの空戦が10~15分と言われていますので、こっちも同じぐらいでしょう。
ですがたった10分ほどの空戦のために派遣された事実がありますから、このLでも重慶まではL下げでも飛行させたと思われます。
次に台湾→フィリピンですが、クラーク基地までが800km以上なので、同じく心許ないですが重慶よりかは若干近いのでこれもやってやれんことはないでしょう。

そして本丸のラバウル→ガダルカナルですが、もちろん無理ですね。
ラバウル→ガダルカナルは1,000km超なのでいっぱいいっぱいです、現実的には不可能と言えます。
実際「三二型」は全速30分+2,134kmでガダルカナル島へ飛ぶことはありませんでした。

ということで、L下げ版は少なくともガダルカナルには飛べなかった、ということになります。
L以外は「零戦」のままなので、戦闘に関する評価は現実通りと考えて差し支えないと思いますが、約半年の活躍(というか酷使)がなくなったわけですから戦果は激減します。
これが「ガダルカナル島の戦い」にどれほどの影響を与えるかはちょっと想像するのが怖いです。

ただ、L下げには裏技があります。
落下増槽の容量を増やせばいいのです。
これを言っちゃうとL下げの圧勝なのですが、実際そうだからしゃーないのです。
増槽を付けたまま激しい運動をすることは考えられないので戦闘にも差し支えなし。
増槽の容量は航続距離を達成するために必要な総量から算出されたものですから、防漏タンク化で減ったであろう36ℓを追加して350~360ℓにすれば万事解決。
ただしタンクの大型化は巡航速度の低下を招く可能性がありますので、Lの延長と相まってパイロットの体力は現実よりもさらに削られるのは確実です。

というわけで、7.7mm機銃対応の自動防漏タンクを持たせて「速度」「格闘性能」「航続距離」のいずれかを削った「零戦」は、落下増槽の容量を増やせば「L下げ」は全然可能性あり、他のパターンは非現実的もしくは劣化ということでした。
「零戦」は戦争の最初から最後まで酷使されたことから毀誉褒貶が成されがちですが、もう少し穏やかな気持ちで「零戦」を眺めてみるのもいいかもしれません。