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零式艦上戦闘機五二型シリーズ/三菱
Mitsubishi A6M5 series(Zero)

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零戦開発物語零戦と戦った戦闘機達
零戦+防弾性-Xのif考察零戦と防弾性の葛藤

大前提として、型式の付番パターンを説明しておきます。
型式は2桁の数字で構成されますが、10の桁の数字が機体形状、1の桁の数字がエンジン型式を表します。
【三二型】の次が【二二型】になるのは、生産された順番ではなく、【二一型】の機体形状に【三二型】のエンジンが搭載されたためです。

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零式艦上戦闘機五二型

全 長9.121m
全 幅11.000m
全高(三点)3.570m
主翼面積21.338㎡
翼面荷重128.0kg/㎡
自 重1,876.0kg
正規全備重量2,733.5kg
航続距離1,920km(正規)
全速30分+2,560km(増槽)
発動機/離昇馬力栄二一型他/1,130馬力
上昇時間約7分1秒/6,000m
最大速度約565km/h
急降下制限速度667km/h
燃 料胴体:60ℓ
翼内:215ℓ×2+40ℓ+2
増槽:320ℓ
武装/1挺あたり弾数九七式7.7mm機銃 2挺/700発
九九式20mm機銃二号三型 2挺/100発
搭載可能爆弾30kgもしくは60kg爆弾 2発
符 号A6M5
生産数三菱:747機
中島:不明

出典:
零戦秘録 零式艦上戦闘機取扱説明書 KKベストセラーズ 編:原勝洋 2001年
[歴史群像 太平洋戦史シリーズVol.33]零式艦上戦闘機2 学習研究社 2001年
零戦と一式戦闘機「隼」 イカロス出版 2019年

A6M5トA6M3トノ比較
A6M3ヨリ改造シタル主要部分
部 分改造要領記 事
主 翼
1.翼端ヲ500粍短縮シ丸型トス第3904號機以降
2.自動消火装置装備ノタメ左舷ハ中部肋材右1番及7番間、11番及16番間ヲ右舷ハ1番及7番間、11番及16番間ヲ氣密トス
卽チ中部肋材1番(右ノミ)及16番(左右共)ヲ改修、其ノ他ノ肋材ハ從來通リトス
第4274號機以降
3.補助翼ヲ12番肋材ヨリ外方トシ外方細クナル(M3ハ11番肋材ヨリ)
修正「タブ」ヲ廢シ修正片ヲ附ス
第3904號機以降
4.「フラツプ翼」ヲ12番肋材マデ延長ス(M3ハ11番肋材マデ)第3904號機以降
5.彈倉(約125發入リ×2)ヲ中部肋材7番及9番間前桁直後ニ作リ付ケトシ外鈑ハ後縁外鈑ヲ除ク全部ヲ0.2mm宛增厚ス空技廠式ニヨリ第4651號機以降實施
三菱式ニヨリ4734,35號及4766號機以降實施
(但シ空技廠式ハ外鈑增厚セズ)
動力艤装關係
6.集合排出管ヲ排シ「ロケツト」排出管トス第3904號機以降
7.排出管變更ニ伴ヒカウルフラツプ後縁ヲ切缺ク第3904號機以降
兵装關係
8.九六式無線電話機ヲ廢シ三式空一號無線電話機ヲ装備ス第4354號機以降
9.九九式20粍2號固定機銃四型(試製給弾装置付)トシ彈藥約125發×2ヲ装備ス
手動装塡、電氣發射トス
第4651號機以降
保安装置
10.發動機周リ消火装置ヲ廢止ス第3904號機以降
11.自動消火装置ヲ装備ス(翼内及外翼燃料槽用)第4274號機以降
飛行制限
12.急降下制限速度ヲ計器速度360節ニ改ム(翼端ヲ500粍短縮セル結果)第3904號機以降
13.急降下制限速度ヲ計器速度 節トス(但シ試製給彈装置付機体)第4651號機以降
重量及重心
14.相當翼弦ヲ4.ノ通リ改ム
15.5.記載ノ通リニシテ自重約13kg增加ス。其ノ内譯下記ノ如シ

 イ.消火装置廢止ノタメ***-7kg

 ロ.自動消火装置装備ノタメ***+20kg

 ハ.翼端***-3kg

 ニ.「ロケツト」排氣管ニ改造ノタメ***+3kg

 計 +13kg
16.試製給彈装置付機体ハ自重約18kg增加ス。其ノ内譯下記ノ如シ

 イ.外鈑增厚ニヨリ***+15kg

 ロ.肋材7~10間小骨及機銃彈倉關係改修ニヨリ***+3kg

 ハ.空氣装塡系統廢止***-6kg

 ニ.手動装塡装備ニヨリ***+6kg

 計 +18kg

出典:零戦秘録 零式艦上戦闘機取扱説明書 KKベストセラーズ 編:原勝洋 2001年
(旧字含め可能な限り原文 A6M3は「二二型」を指す)

【零戦】のイメージとして最も有名なのはこの【五二型】でしょう。
生産数も当然最大で、かつ兄弟も多い【五二型】【零戦】の顔と言っていいと思います。
【五二型】【三二型】を急遽改良した【二二型】をさらに念入りに再設計したようなもので、【三二型】【二二型】のいいとこ取りをして今度こそ純粋なブラッシュアップタイプとなりました。
【仮称二二型改】として計画がスタートしていることからもそのことがわかります。

ただ、タイミング的にはここいらで新戦闘機が登場していないほうがまずいので、【五二型】そのものの性能とは別に明らかに開発状況は悪いです。
長くなるのでここでは書きませんが、【雷電】のあれやこれやがあって結局【零戦】【二二型】で誤魔化すことができず、このように【五二型】として登場せざるをえなかったのです。
また以下の各改修の研究は昭和17年後半から続々と成果として挙がっていたのですが、「ガダルカナル島の戦い」の【二一型】【二二型】でてんやわんやしたことで早期に改良型として誕生することができなかったのではないかという見方もあります。

主翼は【三二型】と同じく翼端50cmずつが短くなりましたが、今度は翼端の形状は角張らずに円形になっています。
角張った形状はあまりよろしくないことが【三二型】で判明していたため、【五二型】では改善されたわけです。
円形なので【三二型】よりも手間がかかりそうですが、内部構造は簡略化されているようです。
この影響でフラップや補助翼、マスバランスなどの位置や大きさなども改良されています。
また補助翼が翼端まで伸びたことでバランスタブはなくなりました。
この主翼の変更により急降下制限速度が【三二型】同様667km/hに回復し、ロール性能と共に改善された一方で、水平の旋回性能はやはり低下してしまいました。
それでも【五二型】【二一型】と評価を二分するほどの操縦性を発揮し、この両者は性能ではなく好みで評価が分かれているようです。

外見ではっきりわかるのは翼端以外にもエンジンのカウリングがあり、カウリングの付け根に右側6本、左側5本の管が確認できます。
これは推力単排気管と呼ばれるもので、これまでエンジンを通して発生していた排気は下からまとめて吐き出していましたが、これをまとめずに気筒の数だけカウリングの外に管を出して排気をするという方法です。
「推力」という言葉で惑わされがちですが、効果ゼロとは言いませんがこの単排気管のロケット効果(噴出力)だけで速度がぐあーっと上がるわけではありません。
排気がカウリングから胴体に向けての空気の膜のようなものを展開することになるので、機体に発生していた摩擦をこの膜が防いでくれます。
これにより摩擦抵抗がなくなり、疑似的な出力アップに繋がるわけです。
【三二型】と同じエンジンで、燃料タンクの拡大や機銃換装などにより重量も増えている【五二型】ですが、このおかげで速度は565km/hまで増加しました。

ただ、この時の三菱が推力単排気管に求めたのは上の「A6M5トA6M3トノ比較 A6M3ヨリ改造シタル主要部分」にもあるようにロケット効果なので、摩擦がなくなるという効力があると知っていたかどうかは疑問です。
この推力単排気管は【五二型】のかなり最初の機体(8月の3904号機から10月中旬ごろの生産分まで)は導入が間に合っておらず、従来の集合排気管で妥協しているようです。
データをいろいろ照らし合わせると、集合排気管の【五二型】は545~550km/hだと想定されていて【三二型】とほぼ同じ。
ただ【三二型】より重量が増えたのに速度がトントンなのはちょっとおかしいですね。
たぶん【三二型】の数値は「栄二一型」の扱いをマスターできていないときの数字なので、【三二型】は実際はもう少し速かったんだと思います。

各排気管から発せられる熱は相当なもので、運用が始まってから排気管の近くの構造物を傷めるという問題が発生。
タイヤに近い最下部の排気管は長さが短くなり、それ以外の場所も排気管の出口付近は耐熱板を貼り付けて対処しました。

とは言えエンジンの馬力は「栄一二型」の離昇940馬力が「栄二一型」で1,130馬力に上がったきり。
【F4F ワイルドキャット】が14気筒離昇1,200馬力に対して、【五二型】生産と前後して登場した【F4U】【F6F】は18気筒離昇2,000馬力と格段に出力が上がっています。
そして【F6F】に対してはこの速度でも対抗するには遅く、旋回性能が【二一型】【二二型】より落ちたことで【五二型】を嫌うパイロットも発生しました。
やっぱり重たいというのは長年戦闘機を操ってきたベテランにとっては苦痛だったのでしょう。
【F4F ワイルドキャット】【F6F】が完全新作(と言ってもシンプルな設計思想ですが)で世代交代が進みましたが、【五二型】の場合はドーピングみたいなものなのですから分が悪いのも当然です。
【五二型】の総合的な能力が上がったのは事実ですが、当時は中島も「誉」に移行している中で【零戦】のためだけに「栄」も延命させている有様でした。
じゃあ同じ14気筒でも「金星」積もうぜという計画も、「金星」版【零戦】飛べるのしばらく先でしょ、「金星」燃費悪いでしょ、【雷電】もうすぐ揃うでしょ(この時はそういう計画)と実用性に欠け、【五二型】そのものが【F6F】には敵わないまでも現地からも喜ばれる程度には良改良だった一方で、裏側ではかなりごちゃごちゃしていました。

【五二型】の初期はこのような改良でしたが、371号機からはさらにようやく、ようやく翼内タンクに自動消火装置が途中から取り付けられて防弾性にも若干の改善が見られます。
それでも防弾タンクは開発や供給に時間がかかっていて、搭載には至らないんですよね。

さらに451号機からは無線機が新型の三式空一号無線電話機に換装。
三式空一号無線電話機はそのものの性能はアメリカも認めたものの、設置位置が悪くてノイズが通信の邪魔をしていました。
機械の性能は高くてもそれを発揮させる環境がわかっておらず、終戦間近に鹵獲したアメリカ軍機を調べてからようやくまともな性能を安定して発揮。
アース処理などにも問題があったようで、解決すると東京から九州(900km前後)でも通じるようになったようです。
なので機械の性能を全然発揮させることができていなかったわけですね。
終戦後にメーカー担当者とパイロットの会話の中で、担当者が「空一号はよかったでしょう」と軽く言ってくるもんですから、相当現場に至るまでに問題があったのでしょう。
ええもん作っても設計屋さんと運転手が使い方をわかっていないと宝の持ち腐れなのです。

おなじみの航続距離も、登場時期にはすでにこんなに要らなくなってますのでもったいないのですが相変わらずです。
これらの改修により機体全備重量が【二二型】の2,679kgから【五二型】は2,733kgに増えるため、本来なら航続距離も多少減るはずですがなぜか増槽込みの要目上は同じです。
50kgぐらいなら推力単排気管の影響で燃費がカバーできるんでしょうかね、素人にはわからない。
燃料タンクはおおよその配置・容量ともに【二二型】と同じで最大890ℓです。

初期はこの設計でしたが、のちに金属不足が本格化し始めたこともあり、増槽の材質が木製及び竹製となっています。
またそれと同時に増槽の容量は320ℓから300ℓへと減少していて機体の新しい古いで若干の差がありました。

生産は【四二型】で出てきた三菱3525機が試作1号機(3月末)で、そこから8月に量産開始、さらに中島が【二一型】から【五二型】と並行して12月から生産をスタートさせました。
【二一型】が生産を終えるのは昭和19年/1944年5月なので、まだ半年ほど【二一型】は生産されることになります。

また【五二型】【五二甲型、乙型】とともに【六二型、六三型】の紹介で登場する「栄三一甲型」を搭載した機体が多数存在します。
「栄三一甲型」については【五三丙型】でもう少し詳しく説明しますが、「栄三一甲型」は「栄三一型」から水メタノール噴射装置を外したものなので、中島としては【二一型】が終わるのであればエンジンは「栄三一型」に集中させたいという考えがあったのでしょう。
幸い「栄三一甲型」は「栄二一型」とほとんど違いがないので取り換えが可能でした。
記録では昭和19年/1944年3月以降の中島製【五二型】系列は全部「栄三一甲型」のようです。
ただし離昇馬力が若干少ない関係からか、試験では10km/hほど遅い速度が記録されています、後で回復したでしょうが結構落ちる。

一方三菱は石川島航空工業から「栄二一型」の供給を受け続けたので「栄二一型」のままでした。
しかしちょっとだけ「栄三一乙型」を搭載した【五二型】系列を生産しているようです。

変わり種としては【五二型】のコックピット後部左側に20mm斜銃を搭載した、通称【零夜戦】と呼ばれる改造機が少数存在しています。
改造機ながら「A6M5d-S」の符号を与えられていて、夜間戦闘機として運用されました。
【零戦】は単座ですがこの運用をするには当然複数人の搭乗が必要なので、複座に改造されています。

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零式艦上戦闘機五二甲型

全 長9.121m
全 幅11.000m
全高(三点)3.570m
主翼面積21.338㎡
翼面荷重128.6kg/㎡
自 重1,894.0kg
正規全備重量2,743.4kg
航続距離(暫定)1,920km(正規)
全速30分+2,560km(増槽)
発動機/離昇馬力栄二一型/1,130馬力
上昇時間7分1秒/6,000m
最大速度559km/h
急降下制限速度740km/h
燃 料胴体:60ℓ
翼内:215ℓ×2+40ℓ+2
増槽:320ℓ
武装/1挺あたり弾数九七式7.7mm機銃 2挺/700発
九九式20mm機銃二号四型 2挺/125発
搭載可能爆弾30kgもしくは60kg爆弾 2発
符 号A6M5a
生産数三菱:391機
中島:不明

出典:
零戦秘録 零式艦上戦闘機取扱説明書 KKベストセラーズ 編:原勝洋 2001年
[歴史群像 太平洋戦史シリーズVol.33]零式艦上戦闘機2 学習研究社 2001年
零戦と一式戦闘機「隼」 イカロス出版 2019年

続いて【五二甲型】ですが、これまでドラム式だった20mm機銃の弾倉がベルト式の九九式二〇粍二号機銃四型に換装されたタイプです。
【四一型】でも述べましたがこいつの改良になかなか時間がかかってしまい、【四一型】はおろか【五二型】でも間に合わなかったためこのように【五二甲型】として登場することになりました。
オリジナルのエリコン社製がドラム式だったのですが、翼内に機銃を埋め込むのであれば場所を取るドラム式よりもベルト式のほうが断然有利なので、改良が進められていたのですが、ようやく花開いたのがこの四型です。
この給弾方式には空技廠式と三菱式の2種類があったようですが、すぐに三菱式に一本化されました。
おかげで翼内スペースが広がり、弾数も125発に増加、また薬莢排出孔などの変更と、【三二型】から発生したドラム式弾倉による小さなこぶの除去に伴う主翼の小修整が施されています。
さらに主翼の厚みを0.2mm増やしたことで長らく懸念材料だった急降下制限速度も740km/hまで改善されました。

しかし機銃の強化は嬉しいものでしたが、防御に関しては焼け石に水でした。
【F6F-3 ヘルキャット】の急降下制限速度は770km/hほどある(実は【F6F】は機体強度と遷音速の関係で急降下が苦手)のでこの点はかなり迫ることができたのですが、これに加えて数の利というものが出てきますから、攻めに関しては苦手な急降下をある程度克服できたものの、受け身になると相当苦しいのは変わりませんでした。

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零式艦上戦闘機五二乙型

全 長9.121m
全 幅11.000m
全高(三点)3.570m
主翼面積21.338㎡
翼面荷重129.4kg/㎡
自 重1,872kg
※ガラス等重量増要素あり
正規全備重量2,763.6kg以上
※7.7mm機銃+弾薬重量をマイナスし、13mm機銃+弾薬重量をプラスした場合の推定値
航続距離1,920km(正規)
全速30分+2,560km(増槽)
発動機/離昇馬力栄二一型/1,130馬力
上昇時間
最大速度約550km/h
急降下制限速度740km/h
燃 料胴体:60ℓ
翼内:215ℓ×2+40ℓ+2
増槽:300~320ℓ
武装/1挺あたり弾数九七式7.7mm機銃 1挺/700発
三式13mm機銃 1挺/230発
九九式20mm機銃二号四型 2挺/125発
搭載可能爆弾30kgもしくは60kg爆弾 2発
符 号A6M5b
生産数三菱:470機
中島:不明

出典:
[歴史群像 太平洋戦史シリーズVol.33]零式艦上戦闘機2 学習研究社 2001年
零戦と一式戦闘機「隼」 イカロス出版 2019年

【五二乙型】【五二甲型】の武装と防御をさらに強化したタイプになります。
20mm機銃は変わらず四型ですが、ついに機首に内蔵されていた7.7mm機銃が1挺13.2mmの三式十三粍固定機銃に換装されました。
すでに力不足だった7.7mm機銃の換装は遅きに失した感じはありますが、これで【五二乙型】は7.7mm、13.2mm、20mmと3種類の機銃が撃てるかわった戦闘機となりました。
2挺とも、もしくは1挺にするにはちょっと時間がなさすぎるということで、片方だけの更新となっています。
それでもごちゃごちゃと細かい変更を行っていて、特に全長が長くなることで前はカウリングの中にまで飛び出し、後ろは操縦席まで飛び出しとえらい強引な搭載をしています。

この三式十三粍固定機銃は「日華事変」の際にありがたく頂戴したアメリカのブローニング製M2重機関銃をパクったもので、艦艇用としてはもう使うことが少なくなった13mm機銃の弾薬を使えるように改造されました。
M2機関銃はこの三式のコピー品より陸軍コピーのホ103としてのほうが圧倒的に知名度が高いと思いますが、こっちのほうが威力はあります。
すでに戦場には【F6F】への代替わりが進みつつあったので、7.7mm機銃で撃ち落とすにはほんとに比喩でもなく穴だらけにして、パイロットに命中するまで撃ち続けるしかありませんでした。

逆に防御に関しては【五二型】でも【五二甲型】でも上がっていますがほとんど効果がなく、まともに防御が向上したのは【五二乙型】からと認識しても差し支えないと思います。
【五二乙型】では前部風防に45mmの防弾ガラス(1枚モノじゃなくて15mmガラス3枚のガラスの張り合わせ)、また背面には8mm防弾板(12.7mm機銃で貫通するんだが・・・)が搭載されました。
加えて胴体内の燃料タンクにも自動消火装置が備え付けられました。

増槽については胴体下の増槽と懸架が陸海軍で共用するために統一増槽三型用のものに更新され、他にも両翼にやや小型の統一型増槽が取り付けられるように改造されました。
この統一増槽三型は250kg爆弾を搭載することも可能でしたが、機体自体は【六二型】のように急降下向けには改修されていないので、水平爆撃しかできません。
両翼の増槽については【五二乙型】の標準的な装備ではないようで、後日改造機が登場したという経緯のようです。
第二二一海軍航空隊や第三航空戦隊が使用した記録がありますが、第三航空戦隊からは空気抵抗で常に振動があるという報告があります。
片方150ℓもしくは200ℓの2種類があるようです。

【五二乙型】は本来であれば【雷電】の量産に伴い中島だけで生産する予定だったのですが、肝心の【雷電】の使い勝手が酷いので結局三菱も量産に参加。
最終的に昭和19年/1944年8月からは両社とも【五二乙型】のみの生産に集中しています。

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零式艦上戦闘機五二丙型

全 長9.121m
全 幅11.000m
全高(三点)3.570m
主翼面積21.338㎡
翼面荷重138.5kg/㎡
自 重1,970.0kg
正規全備重量2,955.0kg
航続距離
発動機/離昇馬力栄二一型(栄三一甲型、栄三一乙型)/1,130馬力(1,100馬力)
上昇時間5分40秒/5,000m
6,000mまで8分前後か
最大速度540km/h
急降下制限速度740km/h
燃 料胴体:60ℓ
翼内:215ℓ×2+40ℓ+2
増槽:300ℓ
武装/1挺あたり弾数三式13mm機銃(機首) 1挺/230発
三式13mm機銃(翼内) 2挺/230発
九九式20mm機銃二号四型 2挺/125発
搭載可能爆弾いずれか1種類
60kg爆弾 2発
250kg爆弾 1発
三式一番二八号爆弾 10発
六番二七号爆弾 2発
九九式三番三号爆弾 4発
符 号A6M5c
生産数三菱:93機+五三丙型発注分のスライドで推定341機
中島:推定1,100機

出典:
零戦秘録 零式艦上戦闘機取扱説明書 KKベストセラーズ 編:原勝洋 2001年
[歴史群像 太平洋戦史シリーズVol.33]零式艦上戦闘機2 学習研究社 2001年
零戦と一式戦闘機「隼」 イカロス出版 2019年

【五二丙型】は最も防御が厚い【零戦】タイプで、加えて武装も強化されている、【五二型】系統最終形態です。
【五三丙型】でも説明をしていますが、「栄三一型」を搭載する余裕がなかったために「栄二一型」や「栄三一甲型」を搭載することになりました。
昭和19年/1944年7月からの開発で、10月には生産スタートと急ピッチです。
【五二乙型】は機首の7.7mm機銃が13.2mm機銃に換装されましたが、【五二丙型】の場合は7.7mm機銃がついに廃止、そして両翼に13.2mm機銃が1挺ずつ組み込まれました。
なので武装としては翼内機銃が13.2mm機銃2挺、20mm機銃2挺、機首に13.2mm機銃1挺となり、【零戦】どころか稼働中の戦闘機全体を見渡しても最大級の火力となりました。
まるで局地戦闘機のような重武装ですが、実際この時はもう局地戦闘機のような戦いしかできなかったので仕方ありません。

他には従来の30kg、60kg爆弾の他に、三式一番二八号爆弾や六番二七号爆弾などのロケット弾、クラスター爆弾の九九式三番三号爆弾が最大4発搭載するための懸吊架が両翼に搭載されました。
九九式三番三号爆弾は本来対地用の爆弾でしたが、【零戦】には対爆撃機、特に【B-17】【B-26】対策として搭載されます。
ただし上から降らせないと意味がないので必然的に爆撃機よりも高い位置を飛ばないといけないんですが、爆撃機よりも上となるとさすがにかなり高い高度なので、【零戦】にとってそんな簡単な仕事ではありませんでした。

防御については、【五二乙型】では強化されていなかった風防の後部、パイロットの頭上の延長線上にある部分がさらに55mm防弾ガラスとなりました。
本来なら他に胴体内の燃料タンクも内袋式防弾タンクという、タンク内部をゴムや樹脂などで覆う防弾タンクに更新されるはずでしたが、肝心の合成繊維であるビニロン(当時はカネビアン)の供給不足により、搭載することができませんでした。
【天山】に多少搭載されたらしいですが、いずれにしても全体的にごく少数に終わっています。
結局こういう経緯から自動防漏タンクが【零戦】に装備された例が果たしてどれだけあるかはわかりませんでした。

それでも前部の45mm、後部の55mm、そして背面の8mm防弾板と、かつてない防御力を得た【五二丙型】
しかし得るものがあればやはり失うものがあります。
振り返ってみれば【十二試艦戦】のころから本機はいろんな理由で超軽量設計でした。
それゆえに防弾性はすっからかんでしたが、防弾性が増すということは機体は当然重くなります。
【五二丙型】はこれらの増強により正規全備重量が2,955kgにまで増加、しかもエンジンは「栄三一型」が搭載できなくなり、「栄二一型」相当の出力となりましたから、速度低下もさることながら運動性も損なわれました。
※正規全備重量には実際に搭載されなかった防弾タンク32.4kgが含まれているので、より現実に近づけるのなら2,923kg。

【零戦】は格闘性能の高さでたとえ劣勢でも敵機とやり合ってきましたが、これを捨てて攻撃力と防御力を上げた機体はまたパイロットによる好みが分かれてしまいます、しかも今回はよりはっきりと。
なんたって【二一型】の人が【五二丙型】に乗ると500kgも違ってきますから、そりゃあ重いでしょう。
あまりに重いので背面の防弾板や13mm機銃(1挺28kg+弾薬等の重量があります)を外して少しでも軽くしようとするパイロットもいたほどです。
しかし13mm機銃は新しかったから供給が間に合わなかった機体もあったのでは、とも言われていますから、13mm機銃がない機体=降ろされたと断言はできなさそうです。

防御力に万全を求めるのは酷ですが、翼内タンクは自動消火装置はあっても防漏ないし防弾タンクではないし、燃えないだけで燃料はずーっと漏れたまま、装備した防弾ガラスや防弾板が20mm機銃は言わずもがな、12.7mm機銃を完全無力化してくれるわけでもありません。
長い間軽業師のような動きで戦ってきたベテランのパイロットには【五二丙型】が馴染まないのも当然です。

しかし当時は新人に毛が生えたようなパイロットが圧倒的に多いため、動きが重かろうがまず落ちにくい飛行機、もっと言えば負けない飛行機が欲しいというのもまた事実。
そして武装は強力ですから、違った見方をすればアメリカ機のような戦いができる戦闘機でもあります。
足は確かに540km/hと遅いんです、でも急降下制限速度は【五二甲型】の時点で740km/hでしたから、【五二丙型】はもうちょっと速くなってもおかしくありません。
そして【F6F-3 ヘルキャット】の急降下制限速度は770km/hなので、全く敵わない範囲ではないのです。
むしろ敵と同じ戦法がとれる新しい強みができたとも言えます、20mm機銃では【F6F】を貫けるのです。

ただ【五二丙型】の良し悪しの評価、【F6F】と対抗できるか否かは別として、【五二丙型】が生産され始めたのは昭和19年/1944年10月とお先真っ暗な状況でした。
どれだけ【五二丙型】が頑丈になっても数の暴力に振り回されるといずれやられてしまいます。
【零戦】初期からこれぐらいの防弾で重いのもやむなしと覚悟を決めていたら【五二丙型】のような機体がもっと早く誕生していたかもしれませんが、現実の【五二丙型】は出てくるのがあまりに遅すぎました。
残念ながら【五二丙型】はここまで無理矢理改良をして使い続けてきた【零戦】のアイデンティティを放棄したことで、【零戦】の限界を示した機体とも言えるでしょう。
それと同時に、最も戦争に必要だった性能を持った【零戦】とも言えます。

プチネタですが、昭和19年/1944年7月から三菱と空技廠で【五三型】という型式付番で研究が進められていたことがわかっています。
型式通り【五二型】に「栄三一型」を搭載しようとしたものですが、【五二丙型、五三丙型】の変遷の中に埋もれていったのだと思います。

一一型
二一型
三二型
二二型
四一型
四二型
五二系統
五三丙型
六二型
五四型

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