砲撃戦は最高だ 士気高揚に利用された舞風
14日、この輸送を行った5隻はすぐさま進路を東に変え、「ガダルカナル島撤収作戦(ケ号作戦)」のための輸送に加わります。
9隻の駆逐艦で行われたこの輸送、今度は空襲を受けることなく無事にガダルカナルまで到着し、揚陸も収容も達成されました。
しかし今度は帰り道で敵機に襲われてしまいます。
この空襲で【嵐】が至近弾を受けたことにより舵が故障、その場ではどうやっても直らないので曳航するしかない状態でした。
そこで【舞風】が【嵐】を曳航をすることになり、何とかそれ以上の被害を出すことなく9隻は揃ってショートランドまで戻ってきています。
【嵐】はトラックでの応急修理だけで何とかなったので、少しの離脱だけで済んでいます。
そして2月1日からはいよいよ「ケ号作戦」が始まります。
総力を結集させると見せかけてもぬけの殻にしてしまうというこの作戦は、トータルでは見事連合軍を欺きとおしました。
ショートランドを出撃した船は駆逐艦22隻という過去にない規模で、この軍団に敵機が襲いかかり、旗艦【巻波】が中破撤退するものの何とかやり過ごします。
この報告を受けて連合軍はすぐさま対策を打ちますが、その最初の一手である駆逐艦による妨害は「イサベル島沖海戦」で【九九式艦爆】の爆弾が【米フレッチャー級駆逐艦 ド・ヘイブン】を撃沈するなど戦果を挙げて阻止。
あとは緊急の機雷敷設と魚雷艇による攻撃のみとなりました。
夜間エスペランス岬に到着すると、せっせと兵士たちを引き揚げさせます。
途中魚雷艇が魚雷を放ちに現れますが、【舞風】は魚雷艇を発見すると直ちに砲撃を加え、見事撃沈を記録しています。
合計11隻の魚雷艇が現れましたが3隻を撃沈し、また魚雷の被害もなく作業は順調かに見えました。
しかし周辺に緊急に敷設された機雷が【巻雲】に襲いかかりました。
艦尾を損傷した【巻雲】は浸水、航行不能となり、【夕雲】が一時曳航しますが結局沈没してしまいました。
帰りにも空襲を浴びましたが乗り切って第一次撤退作戦は終結。
4日には早くも第二次作戦が始まります。
今回は【舞風】は二列縦隊の左舷先頭にあり(前回は右舷先頭)、この時もやはり真っ先に狙われました。
必死に爆撃を回避するものの、うち1発が至近弾となり左舷中部付近で炸裂。
そこには二番缶室があり、みるみるうちに浸水が始まりました。
浸水により缶がやられてしまった【舞風】は1隻取り残されてしまいます。
動かないところを狙われなかったのは幸いですが、このままでは何もできません。
途方に暮れている中、空襲をやり過ごした味方の中から【長月】が救助のために引き返してくれました。
【舞風】は【長月】に曳航され、ショートランドまで帰還します。
ショートランドで多少の修理を受けた後、【雪風】に曳航(護衛?)されてトラック入り。
トラックでも修理をされていますが、到着から約1ヶ月で日本へ向けて出発し、しかもその時は【満潮】を曳航する【浜風】を護衛していたので、重症ではなかったのでしょう。
【舞風】の修理が完了したのは7月22日。
翌日すぐにトラックへ向けて出撃し、そしてそのあとすぐに【野分】も戦列復帰したことで、第四駆逐隊はようやく全員が復帰しました。
ところがその矢先の8月6日、「ベラ湾夜戦」で【嵐、萩風】が瞬殺されてしまいます。
第四駆逐隊は2隻だけになってしまったので、9月15日に【山雲】が新たに加わっています。
10月20日には、丁四号輸送部隊の第三輸送部隊として上海からラバウルへ向かっていた【舞風】達に潜水艦が襲いかかります。
沖縄と中国を直線に結ぶエリアでウルフパックを組んでいた【米ガトー級潜水艦 シャード、セロ】、【米タンバー級潜水艦 グレイバック】が第三輸送部隊を発見。
この後【グレイバック】が魚雷を放ち、【粟田丸】に3本が命中します。
さすがに3本以上の魚雷は豪運か強靭な肉体の持ち主でなければ耐え切れず、【粟田丸】は沈没。
【舞風】は一緒に護衛をしていた【野分】とともに生存者の救助を行いましたが、1,300人を越える戦死者を出す大損害を被りました。
その後第三戦隊【金剛】【榛名】を伴って【野分】とともに一度日本に帰国、年が明けると【野分】と一緒に【愛宕】を護衛してトラックに戻りました。
到着後はラバウルを経由する輸送を2度ほどこなし、2月にはトラックにいた民間人を乗せた【赤城丸】を護衛してまた日本に帰ることになりました。
【赤城丸】には日本に引き揚げる民間人が多く乗ることになっていて、トラックからの脱出を推進していたところでした。
しかし日本が危機を感じ始めた通り、トラックを襲撃しようとするアメリカの動きは最終段階にはいっていました。
2月初頭にはすでに大型艦がトラックを脱出し始め、海軍としてもトラックからの撤退は決定事項となり、その後もトラックを離れる船が続出します。
ところがこの決定はトラック全土にすぐさま行き渡ったものではなく、その影響でトラックに止まってしまう船も人も多くありました。
それでも2月16日、【舞風】は【野分】【香取】とともに、前述のとおり【赤城丸】を護衛してトラックを出発する予定になり、トラック脱出の機会を得ます。
これは第4215船団と呼ばれるものですが、実は【赤城丸】の当初の任務は民間人の本土輸送ではなくウェーク島への物資輸送だったため、人を乗せるために場所を取る物資を降ろすという手間が発生してしまいます。
この影響で第4215船団の出発は翌日にずれ込んでしまい、そしてこの1日が運命を最悪の結末に導いたのです。
17日早朝に第4215船団はトラックを出撃。
ところが出撃してわずか30分後、その時を待っていたかのように敵機が上空を埋め尽くしました。
ついに「トラック島空襲」が始まったのです。
まだトラック環礁周辺だったことから速度が出せなかったものの、【舞風】達は辛くもこの危機を脱します。
状況は最悪ですが、【赤城丸】は特設巡洋艦のため、徴用船に比べてもちょっと速度が出ますから、あとはひたすら逃げるだけです。
しかししばらく進むと、第二波の群れが、そしてその後も続々と航空機が第4215船団の前に立ちふさがりました。
やはり第4215船団は標的となり、【赤城丸】が1発被弾、そして追撃でさらなる被弾などから炎上、航行不能に陥りました。
ほかの3隻も無事ではありません、【野分】が懸命な操艦で何とか爆弾の嵐から抜け道を辿って走り回りましたが、【舞風】と【香取】は運命に抗えませんでした。
【香取】は【赤城丸】に残された大量の乗員たちを助けるべく【赤城丸】のそばに向かいますが、救助活動中の【香取】にも、海に浮かぶ生存者に向けても非情の攻撃が繰り出されます。
【舞風】も正確な被害は不確かなものの、爆撃と雷撃でその小さな身体は蹂躙され、ボロボロになってしまいます。
被弾による黒煙をあげながら、第四駆逐隊旗艦だった【舞風】は【野分】にわずかな希望をかけて救助と司令部移乗を要請します。
【香取】もすでにさらなる被弾によって火だるまになっており、今や【野分】だけがすべての頼りでした。
ただ【野分】も直撃弾を受けていないだけというだけで、余裕があるかと言われると全く否です。
【野分】も他の3隻同様鉄屑にしてやると息巻く爆撃機が四方から襲いかかり、助けを求める【舞風】の声に応えることができません。
それでも【野分】は、ついに致命的な被害を受けることなくこの空襲を乗り切りました。
【赤城丸】は空襲の中で沈没してしまいましたが、【舞風】と【香取】はまだ浮かんでいます、浮かんでいれば何とかなります。
しかし空から敵がいなくなったら、今度は海から敵が現れたのです。
その姿に【野分】が戦慄を覚えたのはは間違いありません、なにせ敵には戦艦が2隻含まれていたのです。
【米アイオワ級戦艦 ニュージャージー、アイオワ】がこの手で第4215船団の息の根を止めるために、わざわざ航空機をどかせたのです。
自力で動けない【舞風】と【香取】。
向こうは戦艦2隻とそのお供がズラリ。
【舞風】が助けを求める声を上げれば上げるほど、【野分】の寿命は短くなっていきます。
【アイオワ】が発砲、轟音が太平洋に轟きます。
その砲弾は【香取】のすぐそばに着弾しました。
そして次に戦艦2隻と駆逐艦が狙ったのは、まぎれもなく【野分】でした。
殺される。
【野分】のスクリューは唸りを上げ、一心不乱に逃げ出しました。
【野分】を追撃し始めた【ニュージャージー】達でしたが、【舞風】と【香取】には【ニューオーリンズ級重巡洋艦 ニューオーリンズ、ミネアポリス】が迫ってきます。
こっちはすでに足を落としていますから、なんてことはありません。
次々に砲弾が撃ち込まれ、1発、また1発と【舞風】の身体を徹底的に痛めつけていきます。
真っ黒な煙に巻き込まれても、レーダーでさらなる攻撃が【舞風】を揺さぶり、ついにその身体は引き裂かれ、【舞風】は沈んでしまいました。
【香取】は灼熱地獄の中でも魚雷や主砲による反撃を最後まで止めず、練習巡洋艦ながら意地を貫きました。
しかしその最期は、2隻の乗員は1人残らず皆殺しにされるという、あまりに冷酷、あまりに無慈悲、あまりに戦争らしいものでした。