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朝霜【夕雲型駆逐艦 十六番艦】その3
Asashimo【Yugumo-class destroyer】

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「テキパキ」は設定上、前後の文脈や段落に違和感がある場合があります。

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礼号作戦 日本勝利の価値やいかに

ブルネイ、そしてその後【朝霜】はシンガポールに入ります。
15日には【岸波】を残して【朝霜】は第二駆逐隊へ異動。
この異動により書類上は第三十一駆逐隊は【岸波、浜波】の2隻なのですが、【浜波】はすでに沈没していたので【岸波】だけとなりました。
そして第二駆逐隊は末っ子の【清霜】とのコンビとなります。
ちなみに第二駆逐隊は第一水雷戦隊所属ですが、20日に一水戦が解隊されて二水戦だけになったので、一水戦だったのは5日間だけでした。

リンガで修理を受けた【朝霜】は、12月5日にこちらも修理が必要な【五十鈴】を護衛してスラバヤへ向かいました。
ただこの12月5日というのは【岸波】が沈没した日で、これで第三十一駆逐隊は崩壊してしまいます。
【五十鈴】の護衛も命令を受けて途中で切り上げてしまい、リンガに帰ってきた【朝霜】は他の船とともにカムラン湾へと向かいました。

【朝霜】達がマニラを去った後も「多号作戦」は続けられていました。
しかし護衛は「雑木林」の異名を持つ「松型駆逐艦」「橘型駆逐艦」や海防艦、駆潜艇などで、またその規模も細々としたものとなりました。

「レイテ島の戦い」は風前の灯火で、フィリピンで次の戦いが始まるのは明白でした。
そして12月15日、マニラのすぐ南にあるミンドロ島に連合軍が上陸し、「ミンドロ島の戦い」が始まります。
ミンドロ島は守備兵が極僅かで、連合軍は大した戦闘もしないうちにさっさと飛行場の造成に着手します。
これに伴い大本営はレイテを破棄してマニラのあるルソン島防衛に戦力を割くことにしました。

その中で海軍はルソンへの進撃を遅らせるためにミンドロ島への攻撃を何とか本格化させなければと焦っていました。
ミンドロ島防衛や奪還、無力化は海軍が中心となって主張しており、一方で現地の総指揮を担当する第十四方面軍山下奉文大将とはルソン島防衛に全力を尽くすべきだと対立が続いていました。
連合艦隊は草鹿龍之介参謀長(当時中将)山下の説得にあたらせ、ミンドロ島に飛行場ができることがどれだけ海軍にとって致命的かを説明。
これに対して山下は若干ではあるものの防衛のための戦力をミンドロ島に回すことを約束し、海軍は陸軍と協力してミンドロ島への攻撃が可能となりました。

そして挺身部隊を編成し、「礼号作戦」が実施されることになるのです。[1-P128]

ミンドロ島へは「礼号作戦」とは別に特攻隊も何度も出撃していました。
彼らの死を無駄にしないためにも、一刻も早くミンドロ島の脅威を拭い去らなければならない。
【朝霜】をはじめ【足柄】【大淀】【霞、清霜】【樫】【榧】【杉】がかき集められ、24日に挺身部隊はカムラン湾を出撃しました。
旗艦は【霞】、指揮を執るのは現二水戦司令官で、第四次多号作戦でも一水戦司令官であった木村昌福少将です。

当初は逆上陸も計画されましたこの「礼号作戦」ですが、戦力が足りないこの状況でルソンとミンドロに戦力を割くのは悪手だということから、水上艦の突撃のみの妨害となりました。
部隊はマニラを目指すように偽装航路をとって進み、運よく発見されずに24日を過ごします。
25日は敵潜水艦を発見し、こちらも同じく見つけられたはずなのですが、別にこの後何か面倒なことも起こりませんでした。
悪天候で波が高かったため、視界不良で発見できなかったのかもしれません。

明確に敵に見つかったのは26日、すなわち突入当日の16時半ごろ。
最初は【PB4Y】【B-24】を元にした哨戒爆撃機)が追跡してきて、その後入れ替わって【B-25】が上空に現れたものの、【B-25】は爆弾を抱いているにもかかわらず攻撃してくる様子はなく、【朝霜】達は作戦通りミンドロを目指していました。[1-P172]

この時すでにアメリカ側は飛行場にはそこそこの航空戦力がありました。
ただ爆弾などの兵器が輸送中の段階だったため、これまでのように日本の船を圧倒的戦力で翻弄することは難しく、特に爆撃できる機体は非常に少ない状態でした。
しかも発見があまりに遅く、一番近い水上艦部隊もレイテ島にいる第4巡洋戦隊だけで、今からの派遣はとても敵の攻撃前に到着してミンドロ島を守るのは無理でした。[1-P167]

敵は輸送船を避難させ、夜になるとさすがに空襲が始まりました。
8時40分ごろ、触接を続けていた1機の【B-25】が急接近し、【朝霜】に向けて爆弾を投下。
これは命中しなかったものの至近弾となり、ついに本格的な妨害が始まりました。
前述のとおり爆弾が不足していたため、攻撃のメインは戦闘機による機銃掃射となります。

21時1分、早速大きな衝撃が【大淀】を襲いました。
しかし2発の直撃弾はいずれも信管がついていないいわば細長い鉄の塊であり、いずれも貫通弾となり爆発はしませんでした。
ここは難を逃れた挺身部隊でしたが、15分ごろ、【B-25】が投下した爆弾が【清霜】の甲板を貫き、その後の火災などもあって機関関連設備が大ダメージを受け、航行不能となりました。

目標を目前にして【清霜】救助のために停滞することはできず、挺身部隊は臆せず突撃を続行。
【朝霜】はこの空襲で2つの魚雷発射管を両方とも損傷して、特に1番魚雷発射管は雷撃ができなくなっています。
また全体を通じて機銃掃射による被害が大きく、【朝霜】は弾薬庫にも銃弾の跡が残るなど結構危ない場面もありました。
他1番砲塔、3番砲塔は左側の砲身が損傷し、さらに3番砲塔は揚弾機も故障して大変でした。[1-P186]

相変わらずの空中戦で被害を出していた中、潜んでいてもおかしくない魚雷艇の姿はなかなか見えません。
実はもちろん魚雷艇も2つの小隊が接近していたのですが、ミンドロへの日本の空襲が頻繁に行われる中で魚雷艇は【瑞雲】の爆撃などで数を減らしていて、さらには慌ただしく出撃していた敵航空機が日本の船と勘違いして同士討ちも発生していました。
特に第一小隊は逆上陸が同時に行われると考えて、そっちの攻撃のために魚雷を温存した挙句の末路でした。[1-P190]
第二小隊は【足柄、大淀、霞】の威嚇で接近できず、そこへこちらも友軍の誤爆を受ける始末。
さらは残った2隻は珊瑚礁に引っかかって動けなくなり、結局誰も挺身部隊の脅威にはならなかったのです。[1-P191]

空襲を振り切った挺身部隊はついに23時ごろ、サンホセに到着。
【大淀】の水偵が照明弾を放ち、各艦の艦砲射撃が始まりました。

【朝霜】は魚雷が撃てませんでしたが、各々砲撃と魚雷で敵輸送船(被害を受けたのは1隻だけの記録)や陸の物資に向けて攻撃を行います。
【朝霜】は主砲58発、機銃2,500発の発射を記録していますが、これには到達前の空襲に対する反撃も含まれているでしょう。
ここまで一方的に戦ったのはいつ振りか、もちろん【朝霜】にとっては初めての経験です。
バカバカ砲弾が敵陣に降り注ぎ、炎を上げていきます。
あの炎は味方が燃えているのではありません、今「礼号作戦」は成功していたのです。

1時間ほどの砲雷撃を終えて、部隊は引き揚げ始めました。
長く居続けると痛い目を見ることは骨身に染みています。
撤退の際には【清霜】の救助も行わなければならず、【清霜】が航行不能となっている場所には【朝霜】【霞】が向かい、残りは先にカムランへ戻るように命令されます。

ところが【清霜】の姿はどこにもありません。
この砲撃の間に【清霜】は火災の末に爆発を起こして沈没していて、その情報は【朝霜】が捉えてすでに【霞】にも伝えられていました。
付近を捜索するとカッターが1隻見つかり、やがてその近くには【清霜】の乗員が大勢浮かんでいるのがわかりました。
【霞】は敵潜の警戒に集中し、主に【朝霜】による救助作業が始まります。[1-P212]

一方残りの船ですが、2隻だけですが魚雷艇が現れたために小競り合いが起こっていました。
【霞】は最初「魚雷艇がこっちに来ている」と連絡したものの、魚雷艇は【霞】達に気付かずに【足柄】達を追いかけていきました。[1-P210]
直近の脅威は去りましたが、敵がまだ攻撃してくるとなると救助活動もチンタラできません。
1時間半ほどの救助で、2隻合わせて258名の命が助かっています。
他5名がアメリカの魚雷艇に救助されました。

救助を終えると急いで【朝霜、霞】【足柄】達を追いかけます。
【足柄】達が魚雷艇の攻撃を受けたように、敵は追撃を諦めていません。
またレイテから巡洋艦部隊が出撃していたという報告もあり、一刻も早く離脱しなければなりませんでした。

撤退を再開してから30分後の3時ごろ、【B-25】が2隻に追いついて爆弾を投下。
命中はしなかったものの敵は着実にこちらを捉えつつありました。
電探を使っていると敵に電波を拾われるのではないかと危惧し、当時は電探を切っていた2隻だったのですが、それでも【B-25】に見つかったということで、バレてるんなら奇襲だけは避けようと再び電探が作動しました。

その後なんとか9時ごろには【足柄】達に合流でき、まずは一安心できました。[1-P217]

やがて天候が悪化し、部隊は厚い雲の下を通過して空襲の危険度は低下しました。
しかし逃れた荒波の中に潜む潜水艦が新たに部隊に襲いかかってきました。

28日10時7分、【大淀】の水中聴音機が魚雷音を探知。
すぐさま取舵で魚雷を回避しましたが、この魚雷はどうやら【朝霜】を狙ったもので、それをその前を行く【大淀】が探知回避したものらしいです(それがわかっているのに魚雷を発射した潜水艦の正体がわからない)。
これが危機一髪で、実は【朝霜】では水測兵が魚雷音らしきものを聞き取っていたのですが、その音が訓練の際に聞いていたものとは違い、天気も荒れているし雑音だろうと早とちりし、魚雷接近を報告しなかったのです。
その後見張が雷跡を発見して【朝霜】は舵を右(魚雷が向かってくる方向。基本的には魚雷を見つけた時は魚雷に艦首を向ける)に切って、なんとか魚雷を回避したのですが、一歩間違えれば海の藻屑でした。[1-P221]
これは突貫訓練が招いた問題かもしれません。

なにくそと【朝霜】は反撃のために魚雷が飛んできた方向へ急行。
その後ゆっくりと進みながら爆雷を投下していきますが、あまり手応えを感じず、荒波の中で探知も難しいことから【霞】も攻撃に加わりました。

ところが2隻の接近を尻目に敵潜は大きな獲物の【足柄】に接近しており、【足柄】は魚雷音を探知したと報告してきました。
しかも間髪おかずに今度は敵機を発見し、【朝霜】には4発の爆弾が投下されています。
被害はありませんでしたが、いよいよ挺身部隊は恐れていた事態に陥ろうとしていました。[1-P223]

こんなに上下から攻撃が繰り出され、さらには水上部隊にも追いつかれる可能性があることを考えると、一目散に逃げるしかありません。
ですが挺身部隊にはそれができない理由がありました。
それが【樫、榧、杉】の存在です。

「松型」である彼女たちはもともと航続距離が短く、さらに他の船が速い分、「松型」にとってはかなり燃費の悪い速度で走り続ける必要があったりました。
それに加えて【杉】は「多号作戦」の被害の修理が終わらないまま出撃し、【樫】は給水ポンプが故障したままの出撃だったために速度は21ノットしか出ておらず、【榧】は道中の空襲で機銃を受けたことで缶が1つ使いものにならなくなっており、最大速度は20ノットに落ちていました。
なので部隊は彼女たちの経済速度に合わせて撤退をしていたのです。

被害をどう抑えるか、言い換えれば戦死者をどう減らすか、指揮官の判断は重要です。
一緒に撤退した場合の最悪のケースと、3隻だけ残した場合の最悪のケース。
戦争というのはこういった選択の連続です。

結局木村少将「松型」3隻は自力で離脱させ、【朝霜】達他の駆逐艦、巡洋艦は高速でカムランまで逃げるという判断を下しました。

正午を回ると【足柄】【大淀】保有の水上機に対潜哨戒にあたらせます(作戦終了後はカムランへ移動待機していました)。
警戒しながら【朝霜】達はカムラン目前まで到達しますが、17時25分、やはりいたか、潜望鏡が【足柄】のすぐそばに確認できました。
その距離たったの2,000mと言われていて、もう回避するより突っ込んであわよくば踏みつぶした方が安全だと考え、【足柄】は潜望鏡に向けて突っ込んでいきました。[1-P223]

しかし体当たりは失敗に終わり、その後の爆雷攻撃では重油がどんどん浮かび上がってくるのが確認されています。
重油流出となるとなかなかの被害のはずですが、アメリカ側の記録ではこの時大きな被害を受けたり行方不明になった潜水艦はいないとのこと。
『第二水雷戦隊突入す』ではこの潜水艦は【米ガトー級潜水艦 デイス】ではないかと言われています。[1-P223]
【デイス】【樫】らが助けた【給糧艦 野埼】を沈めた(後述)張本人ですから、このあたりにいても不思議ではありませんが、一方で重油流出から僅か2日後に【海鷹】を雷撃(失敗)していることになり、さすがにこの可能性はないと思います。

18時30分、【朝霜】達先行組はようやくカムランに到着しました。
その後サンジャックに向かうように指示があったのですが、木村少将はそれを無視して「松型」3隻が無事に到着するのを待ち続けます。
彼女たちは彼女たちの精一杯の力で、カムランを目指しています。
先に行くからついて来いと命令したからには、待ってやらねばならぬ。

夜が明けました。
カムランは静かです。
そして間もなく正午というところで、ついに一際小さな駆逐艦3隻が水平線から姿を見せました。
ちゃんと3隻います、フラフラもしていません、ゆっくりですがちゃんと航行しています。
3隻はその後も攻撃を受けることなく生還できたのです。

それどころか彼女たちは、サイゴンからカムランへ向かう途中に【デイス】によって撃沈された【野埼】の乗員の救助まで行っていました。
ヘロヘロだった3隻はしっかり補給を受け、全員で出撃してサンジャックへ向かいました。
「礼号作戦」そのものの影響はぶっちゃけほぼゼロで、【清霜】喪失の見返りが適当な物資丸焼きと輸送船4隻の被害だけでは全然釣り合わないのですが、とりあえず「礼号作戦」は成功裏に終わりました。

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参考資料(把握しているものに限る)

Wikipedia
東江戸川工廠
艦隊これくしょん -艦これ- 攻略 Wiki
[1]第二水雷戦隊突入す 著:木俣滋郎 光人社