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信濃【航空母艦】その5(出撃)
Shinano【aircraft carrier】

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  1. 大和型戦艦三番艦 戦艦信濃の下準備
  2. 信濃に全てを託す 世界最大空母の誕生へ
    1. 飛行甲板
    2. その他の防御・防火
    3. 格納庫
    4. 対空火砲
    5. その他
  3. 急げと急かして止めろと止めて
  4. ドックで暴れる信濃 大わらわの進水式
  5. 近くて遠い呉航海 裸の信濃出撃
  6. 落ち武者は薄の穂にも怖ず 見えぬ群狼が信濃を狂わす
  7. 惜しいことをした

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落ち武者は薄の穂にも怖ず 見えぬ群狼が信濃を狂わす

ここでもう1隻の主役である、【信濃】を撃沈した【米バラオ級潜水艦 アーチャーフィッシュ】が登場します。
空襲があった場合は、もし【B-29】が墜落したらそれの救助に向かうのが【アーチャーフィッシュ】の仕事でした。
しかし28日早朝、今日から48時間は【B-29】の空襲がないから、遠州灘付近でパトロールをするように言われていました。
また周辺には【アーチャーフィッシュ】以外の潜水艦はおらず、【アーチャーフィッシュ】は自由気ままな航海が許されました。[14-P81]
浜名湖沖から東進してきた【アーチャーフィッシュ】は、ざっくり横須賀から南南西180kmほどあたりを航行していたと思われます。

【アーチャーフィッシュ】にとって最初から幸運だった点は、【信濃】側は事前の報告からも潜水艦は群れで行動していると確信しており、【アーチャーフィッシュ】1隻の疑いに全力を尽くすことができなかったことです。
むしろ1隻の疑いだけで護衛を薄くしないように、事前の打ち合わせで、護衛艦は極力【信濃】のそばを離れず敵を牽制し、敵魚雷の射程より外に離れないようにと釘を刺しています。[14-P121]
述べた通り、【信濃】達が仕入れた情報とは裏腹に【アーチャーフィッシュ】は終始単独行動であり、これにより魚雷を発射するまで【アーチャーフィッシュ】は攻撃を受けずに済んだわけです。

その【信濃】もまた、南南西に舳先を向けて航行していました。
灯火管制、無線封止、海は暗く、雲多く、時折雲間から差し込む月光に照らされる巨大な影はただただ不気味でした(【信濃】はこの航海中だけでなく普段からずっと無線封止)[14-P67][14-P74]

19時~19時15分頃に【磯風】が潜水艦の電波を探知。
電波は【信濃】でも受信したようです。[14-P77]
各艦いよいよかと緊張が走りましたが、ここまで来て引き返すと夜が明ける前に大阪湾周辺に入れません。
各員疲れた頭を奮い立てて暗い海を見渡します。
この電波が【アーチャーフィッシュ】を捉えたものかどうかは謎のままですが、【アーチャーフィッシュ】【信濃】達を発見したのはそこからさらに2時間近く後の20時48分でした。

【アーチャーフィッシュ】は東京湾の遥か南に差し掛かったところで北上を開始。
【アーチャーフィッシュ】は当日にレーダーの故障が発生しており、潜航しながら東へ進んでいたのですが、夕方になってもレーダーは直りませんでした。
19時30分、レーダーの修理はあと1時間ほどかかるという報告が入りますが、修理を完了させるため、どこかで必ず同調の確認のために電波の発信が必要です。
しかし19時30分から1時間の間に電波の発信があるという事は、【磯風】【信濃】が受信した時間とはズレが生じています。
日本が受信した電波が【アーチャーフィッシュ】のものかどうかはわからずじまいです。

20時30分にようやくレーダーの修理が完了。
ちょうど見張員が方位60度(東北東付近)に藺灘波島(イナンバ島)の視認を報告します。[4-P205][14-P89]
そして藺灘波島もレーダーで捉えることができ、本調子であることが確認できました。

が、直りたてのレーダーが捉えたのはどうやら藺灘波島ではないようです。
レーダーが捉えたものは方位30度(北北東付近)、しかし実際に視認している藺灘波島は60度の方向にあります。
どういうことだと確認すると、「その島は動いてますぜ」と返答がありました。

20時48分、24,700ヤード(約22.5km)、方位28度。[14-P89]
双眼鏡で見てみれば、なるほど黒い物体が徐々にこちらに迫ってくるのが見て取れました。
甲板からも真っ暗な水平線の遠く遠くに小さな異物が紛れているのが報告されました。
構造物が見えないのでタンカーだろうか、いずれにしても獲物が現れた。[14-P99]

護衛の駆逐艦の存在もつかんだ【アーチャーフィッシュ】は18ノットに加速。
そのまま正面に居座るのではなく、潜航してぐるっと謎の島の西側を回って向きを合わせ、側面で待ち伏せし、護衛の駆逐艦が過ぎ去ってから浮上雷撃をしようと考えました。[14-P101]
魚雷は基本は側面、そして護衛の薄い場所から撃つものです。
「面舵、針路270。目標の航路までの距離が5マイルになったら停止。魚雷班を配置につけろ」[14-P102]

21時頃、雲は晴れ、月明かりの下を【信濃】達は穏やかに南下し続けます(方位およそ210度南西方向)。
その時、【信濃】は再び何らかの電波を探知し、護衛に伝えます。
謎の存在は【信濃】の右舷後方に存在するとして、【雪風】に確認をするように求めます。
【雪風】はこれに応じて捜索にあたりましたが、「味方識別に応ぜざるも、乾舷高く、漁船と思われる」と、潜水艦らしきものは見当たりませんでした。
見つからなかった怪しい存在は【アーチャーフィッシュ】ではないかという説もありますが、この時間だと【アーチャーフィッシュ】はまだ【信濃】のずいぶん前にいたはずなので、恐らく違うと思われます。[4-P207][7-P389]

【信濃】に近づくにつれ、タンカーと思われた存在はどっこい空母だったことがわかります。
まさかこんな大物が目の前に、しかし何たる大きさか。
急いで艦型識別帳をめくってみますが、特に開放型の格納庫はどの空母にも当てはまりません。
こいつは新型空母に違いない、【アーチャーフィッシュ】は昂る気持ちを抑えて、【信濃】の側面を捉えるために速度を上げました。[4-P204]
すでに【信濃】の西方には位置していましたが、【信濃】達は南下を続けており、護衛の存在もあって【アーチャーフィッシュ】は敵の進路が西に代わることを願って並走するしかありませんでした。[14-P146]

狙われた【信濃】ですが、電波探知から潜水艦が近くにいることはすでに分かっていました。
ここから時間の錯誤がありますが、【浜風】は22時ごろに右舷前方に浮上する何かを発見します。
【信濃】の見張員も同じ時間帯に潜望鏡らしきものを発見し、【信濃】は対象に向けて発光信号を放ちました。
ですが【浜風】【磯風】の可能性もある)は十中八九敵潜水艦であると判断し、自己判断で隊列を離れて対象に迫っていきました。

一方【アーチャーフィッシュ】も、さすがにレーダーを使い続けいていることから敵に見つかっていることぐらいは予測していました。[14-P153]
しかし【アーチャーフィッシュ】はこの駆逐艦の接近も発光信号も確認しており、そしていずれも22時45分前後であるようです。[4-P210][14-P155]

【アーチャーフィッシュ】はどうするか瞬時に悩みます。
安全性を重視して潜航すれば獲物を逃がす。
しかし気付かれていないと信じ、浮上し続ければ、発見されれば直ちに砲撃を受けてしまうだろう。
波をかき分ける【浜風】のシルエットはどんどん大きくなります、この動きは怪しんでいるレベルではなく、確実に存在を認識しているものでした。

すでに十分射程内ですが、敵からの砲撃はありません。
【浜風】の動きに疑問を感じつつも、【アーチャーフィッシュ】はさすがにまずいと潜航準備(反転準備?)を命令します。
その瞬間、【信濃】から赤色信号が発せられたのが【アーチャーフィッシュ】からも見えました。[14-P159]

この赤色信号は厳密には方向性赤外線信号で、無線封止をする中で戻るように指示をするものであることが出航前に決まっていました。[14-P371]
【浜風】は砲撃をして目印になること、護衛が手薄になり他方からの襲撃を恐れた【信濃】に呼び戻され、もう少しで【アーチャーフィッシュ】に強烈な一撃を与えるチャンスだったのに、他の見えない潜水艦に怯えて【信濃】に首根っこを掴まれてしまったのです。
命令とあっては仕方ありません、振り上げた刀を降ろし、【浜風】は踵を返して護衛に戻っていきました。[14-P127]
そもそも灯火管制下で発光信号を放つことそのものはどうなのという疑問もありますが。

何だか知らんが助かった。
深追いを受けず命を救われた【アーチャーフィッシュ】でしたが、事はそれで終わりません。
【信濃】はさらに速度を上げて、20ノットで真南に進み始めました。
【信濃】にとって限界だったこの20~21ノットは、「ガトー級」の最大水上速度19ノットを僅か上回っていました。
【アーチャーフィッシュ】がどれだけ尻を叩いても、【信濃】は着実に【アーチャーフィッシュ】から逃れていきます。

【アーチャーフィッシュ】の進路は【信濃】が真南に向かってからも南南西を維持していましたが、23時30分ごろ、ついに【信濃】をロストしてしまいます。
あの空母がどこに行くかわからないが、こうなると【信濃】がもとの進路に戻ろうとして再び西に舵を切り、そこで再会することに賭けるしかありませんでした。[14-P164]
【アーチャーフィッシュ】は大型空母追跡中という内容を無電で知らせ、腐らずにそのままの進路を航行し続けました。[5][14-P165]

しかし【信濃】側にも問題が発生しました。
右舷の中間軸受けが過熱し、フルスロットルでの運転ができなくなってしまったのです。
今の【信濃】は少ない缶でずっと全速力で走っているようなものですから、特にできたての船を急にいじめるとこういうことは起こり得るのです。

海水を軸受けにかけて冷やしてみましたが全然効果はなく、熱を下げるには速度を落とすしかありません。
しぶしぶ艦橋にそのことを報告すると、阿部艦長はやはりおかんむりでしたが、他に方法はなく、【信濃】は生命線だった20ノットを割って18ノットでの航行を余儀なくされました。[14-P176]
速度が遅くなったこともあって、29日になる少し前から【信濃】は雷撃を避けるために之字運動を開始し、さらに進路を西へと変更しました。

【信濃】が減速西進、つまり直角右折したことで、諦めずに南南西の方向に移動していた【アーチャーフィッシュ】に再びチャンスが巡ってきます。
【アーチャーフィッシュ】が再び【信濃】を探知した時は、両者の速度に大差はなく、ショートカットしている形になる【アーチャーフィッシュ】はこのまま進むと【信濃】の進路の先を通り過ぎることができました。

【アーチャーフィッシュ】【信濃】の西進は一時的なもので、再び南南西に変針するだろうと考えました。
となると【アーチャーフィッシュ】は奴の左舷、方位で言えば南に入って並走し、南下したところで側面から魚雷をぶち込んでやればよい。
【アーチャーフィッシュ】は浮上航行しても視認されないように、【信濃】の予測進路から15kmほどの距離まで直進、その後再び【信濃】と並走を開始しました。[4-P192]
そして今度は【信濃】よりも若干速い速度が出せていたので、【信濃】に振り切られることはありませんでした。[5]
もちろんその理由を【アーチャーフィッシュ】が知る由はありません。

しかし肝心の【信濃】は南下する様子はなく、一心不乱に西へ向かうばかり。
南下したところをドーンとするつもりだったのに、これでは敵が全然射程内に入ってきてくれません。
速度差があると言っても僅かに1ノットですから、接近しようとすると今度は追いつけなくなりますし、確実にその姿を敵に長時間晒すことになります。
【信濃】の西進は続きます。
もしわれわれの予測とは真逆に、再び本土側、すなわち北上するようなことになれば、今度こそ【アーチャーフィッシュ】は追いつけません。
【アーチャーフィッシュ】は個人の戦果にこだわってこの獲物を逃すのだけはまずいと考え、2時30~40分ごろ、各司令部に暗に応援を求める無電を発しました。[4-P215][14-P229]
すでに敵にその存在を気付かれている【アーチャーフィッシュ】にとっては、無電を送ることに躊躇はありませんでした。

この電波は【信濃】でもしっかりキャッチすることができました。
奴はすぐそばにいる、しかし奴がどの方向に潜んでいるかまでは相変わらずわからない。
どこが危険か、どこが安全か。
潮岬沖は危険だ、やはり交通量が多い海域は狙われやすい、特に今回のように複数の潜水艦が出没する可能性が高い場合は飛んで火にいる夏の虫だ。

潮岬沖は北西にあたりますが、今こちらへ向かうのは危険だと判断した【信濃】は、もう一度南西へ進路を取りました。
ただし後で紹介する梅田水兵長の日誌によると、ちょうどこの時間帯に右舷前方に浮上航行する潜水艦を発見しているとあります(反航とあるためこちらに向かっていることまで把握)。
護衛の駆逐艦とも認識と危機を共有したものの、3時5分ごろにはその艦影も、レーダーでも見失ってしまいました(【アーチャーフィッシュ】の潜航時間と合致)。[4-P237][14-P239]

【アーチャーフィッシュ】は狂喜乱舞します。
2時56分、標的はググっと艦首をこちらに向けて来たのです。
その原因が先ほどの無電だとはもちろん思いませんが、思ってもない行動が【アーチャーフィッシュ】に幸運をもたらしました。
【信濃】がこちらに向かってくるわけですから、【信濃】【アーチャーフィッシュ】の航跡をクロスすることになります。

【アーチャーフィッシュ】は、まず南西、のち南へ向かってくる【信濃】の前を通過、【信濃】の右舷に入ります。
そしてグルっと反転、予測進路の横に入り、絶好の射点に入ることができました。
【信濃】との距離が10km近くなったところで【アーチャーフィッシュ】は潜航を開始し(3時5分)、【信濃】にゆっくり接近しました。[5][14-P245]

【信濃】の進路は3時10分に之字運動のためにさらに真南へと変わりました。
すでに【信濃】の右舷斜めから狙える射点に入っていた【アーチャーフィッシュ】にとっては、真南を向いてくれたことで舷側をすべて晒してくれる最高の位置となりました。

出典:『空母信濃の生涯』

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信濃の写真を見る

参考資料(把握しているものに限る)

Wikipedia
[1]軍艦開発物語2 著:福田啓二 他 光人社
[2]航空母艦物語 著:野元為輝 他 光人社
[3]艦船ノート 著:牧野茂 出版共同社
[4]空母信濃の生涯 著:豊田穣 集英社
[5]1 US Sub Sinks a Japanese Supercarrier – Sinking of Shinano Documentary
[6]What Was The Fate of The Shinano? Japan’s Ten-Day Supercarrier
[7]『雪風ハ沈マズ』強運駆逐艦 栄光の生涯 著:豊田穣 光人社
[8]空母大鳳・信濃 造艦技術の粋を結集した重防御大型空母の威容 歴史群像太平洋戦史シリーズ22 学習研究社
[9]日本の航空母艦パーフェクトガイド 歴史群像太平洋戦史シリーズ特別編集 学習研究社
[10]図解・軍艦シリーズ2 図解 日本の空母 編:雑誌「丸」編集部 光人社
[11]日本空母物語 福井静夫著作集第7巻 編:阿部安雄 戸高一成 光人社
[12]戦史叢書 海軍軍戦備<2>開戦以後 著:防衛庁防衛研究所戦史室 朝雲新聞社
[13]沈みゆく「信濃」 知られざる撃沈の瞬間 著:諏訪繁治 光人社
[14]「信濃!」日本秘密空母の沈没 著:J.F.エンライト/J.W.ライアン 光人社