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『高雄型重巡洋艦』
【Takao-class heavy cruiser】

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艦型と個艦の説明を分けましたが、単純に分割しただけなので表現に違和感が残っていると思います。
基準排水量10,000t
全 長203.76m
水線下幅19.00m
最大速度35.5ノット
航続距離14ノット:8,000海里
馬 力130,000馬力
「テキパキ」は設定上、前後の文脈や段落に違和感がある場合があります。

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さらなる高みを目指して 旗艦型重巡洋艦「高雄型」

「妙高型」が建造されてからも、日本は引き続き重巡洋艦の充実に力を注ぎます。
「妙高型」は確かに高火力を発揮した重巡洋艦でしたが、建造中に少なからず不満な点が発生しています。
そこで、その不満箇所を解消し、さらにもっと艦隊の役割を明確にする「高雄型重巡洋艦」の設計が始まりました。

なお、書類上では「高雄型」は日本で最後の重巡洋艦であり、以降の「最上型」「利根型」は、最終的にはともに重巡洋艦に分類されるスペックを持ちながら、「二等巡洋艦」すなわち軽巡洋艦としてあり続けました。

「高雄型」設計・建造にあたっては、軍令部にとって「口煩い」平賀譲を排除し、新たに藤本喜久雄造船大佐が担当することになります。
「高雄型」はあくまで「妙高型」がベースとなっており、全く新しい巡洋艦というわけではありませんでした。
しかし土台は同じでも、求めるものは大きく異なります。
1つは、「高雄型」最大の特徴ともいえる大型艦橋、そしてもう1つが、諸外国の「条約型巡洋艦」の姿が見えてきたことによる更なる改善でした。

まずはその大きい、大きすぎる艦橋の構造を説明しましょう。
この大きさは素人からプロ、外国の設計者もこぞって同じ評価、すなわち「なぜこんなに大きな艦橋が必要なのか」でした。
意図が見えない大きすぎる艦橋に対し、「甲状腺の肥大したカバ」とまで、ジェーン軍艦年鑑の編集者に言われてしまいます。
他にも、「現場に言われたまま造っただけだろ」と、ズバッと本質を突かれる一言も残されています。
しかし「高雄型」には、何とかしてこの大きさに見合った設備と役割が必要だったのです。

艦艇は1隻1隻が独立して動くわけではなく、大きな組織として運用されます。
トップに連合艦隊を据えて、その後艦隊、戦隊、駆逐隊と続いてきますが、連合艦隊と艦隊はおおむね大型艦、つまり制約がなければ戦艦が務めていました。
しかし「ワシントン海軍軍縮条約」によって戦艦の建造が認められなくなったため、艦隊旗艦には10,000t級の巡洋艦も担当することが容易に想像できました。
「妙高型」では【妙高】【足柄】が艦隊旗艦設備、【那智】【羽黒】が戦隊旗艦設備を要していましたが、知っての通り非常に狭いわけで、満足のいく設備ではありませんでした。

そこで「高雄型」には、もっと充実し、かつ十分なスペースを確保した艦橋を整備し、司令塔としての役割を担える船に仕上げようと考えたのです。

ただ、簡単に言えば、いわゆるお偉いさん用の部屋を増やすことがその答えになります。
例えば司令長官の部屋、参謀長の部屋、軍医長、主計長など、1隻どころか10隻単位の船を束ねる面々の生活環境を整えなければなりません。
人数にして100人以上の増員となります。
他にも作戦室や無線通信室など、普通の船にはない設備も用意しなければならず、艦橋のサイズはまずこれらをしっかりと収めるものにする必要がありました。

それに加え、普通の船の艦橋設備、羅針艦橋、各兵装指揮所などがありますし、さらにこの艦橋構造の研究会を開いた際に次々と要望が飛び込んできて、まとめていくとこんなに大きくなってしまったのです。
この大きさでもちょっと小さくした結果で、全部受け入れていたら果たしてどれほどの大きさになったのでしょうか。

改装で【高雄】【愛宕】は艦橋の小型化がされているので、いささか大きすぎたのは間違いないでしょう。
床面積は「妙高型」の3倍ほどにまで膨れ上がりました。

そして要求というのは吟味しなければなりません。
すなわち、要求の根拠が正しいのか否かです。
まぁだいたい要求丸呑みのケースは根拠はイメージだけなのですが、案の定、これだけ大きな艦橋を用意したにもかかわらず、いくつかは空き部屋になったり適当な物置部屋になったりしました。
過剰だったのは結果を見れば明らかです。

ただ、 面白いことに、この艦橋、現在の海上自衛隊の

【イージス艦 こんごう】
【イージス艦 あたご】

の艦橋によく似ています。
当時の設計コンセプトが現代のイージス艦設計に通じているというのは大げさでしょうが、艦橋が持つ役割というのがどんどん強まっていたのはこういう点からも推察されます。

艦橋構造でもう1つ面白いのは、煙突の上に乗っかっている点です。
「妙高型」は艦橋の付け根部分から煙路が斜め後ろに伸びていますが、「高雄型」はほとんどが艦橋の下に一体化しており、煙突と艦橋の間の隙間はずいぶん少なくなっています。

このように、「高雄型」「妙高型」よりも隙間を狭くした構造となっています。
構造物を密集させるのは、バイタルパートを狭くして防御力を高めるためです。
バイタルパート=重要防御区画とは、防御を優先すべき区画のことで、船の心臓部である機関部や、誘爆の危険性がある弾火薬庫などがそこにあたります。
主砲の隙間を狭くし、上記のように煙突と艦橋を一部一体化、さらに弾火薬庫の舷側装甲は「妙高型」より1cm大きく12.7cmになりました。

出典:『軍艦雑記帳 上下艦』タミヤ

上面装甲も47mmとなり、弾火薬庫防御については世界トップクラスとなっています。

水線下装甲は「妙高型」から踏襲した傾斜12度、厚さ102mmの分厚い装甲を要し、これも世界トップクラス。
しかし砲塔装甲は25mmとこれもまた「妙高型」と同じで、これは重量を抑える際に致命傷になる舷側や水線下装甲を緩めるより、5砲塔のうち1砲塔が動かなくなるほうがまだましだったからです。
また、主砲がダメージを受けても魚雷があれば十分戦えるという考え方もありました。

その主砲ですが、これまでと同じく20cm連装砲5基ではありますが、その仰角において大きな改善がありました。
これが海外の10,000t級巡洋艦を参考にした結果の1つで、「高雄型」の20cmE型連装砲は仰角がこれまでの40度から一気に70度まで指向できるようになりました。
これはイギリスの「ケント級重巡洋艦」に搭載されたMark VIII 8インチ50口径砲の性能に影響を受けたもので、両用砲としての活用が期待されました。
そのため水上艦砲撃用だけでなく、対空砲撃用の砲弾も準備されていました。

ですが、日本はどうも両用砲の扱いが苦手で、装填するために5度まで降ろす必要があったのはこれまでの20cm砲と同じだったため、実は両用砲ではなく高仰角平射砲と表現するのが正しいです。
また、砲弾の重さも速射性を損ねる原因となります。
速射性が求められる対空砲においてこのタイムラグは命取りで、またここまでの大口径だと急降下爆撃機よりも雷撃機に向けてはなったほうが効果的だったので、結局【摩耶】はE1型と呼ばれる仰角55度のものが搭載されています。
このように20cm連装砲及び20.3cm連装砲は各艦型と同じように更新されていて、その比較の図がありますので掲載しておきます。

出典:『軍艦雑記帳 上下艦』タミヤ

似たようなことは駆逐艦の主砲である12.7cm砲でも起こっており、仰角40度だったA型に対して75度のB型、そして仰角と重量をを抑えたC型(55度)へと戻っています。
設計上ではこの両用砲の効果があるとし、対空砲である12cm単装高角砲が「妙高型」の6基から減じて4基となっています。

出典:『軍艦雑記帳 上下艦』タミヤ

ただ、機銃は7.7mm単装機銃2基が40mm単装機銃2基へと大型化しています。

出典:『軍艦雑記帳 上下艦』タミヤ

海外の影響を受けた点としては、カタパルト2基搭載も重要なことです。
つまり水上機の活用がより重要であるという意識で、アメリカの「ペンサコーラ級重巡洋艦」が、カタパルト2基、水上機4機搭載という能力を持って誕生。
カタパルトの性能もよく、「高雄型」はそこまでの能力は持てなくても、カタパルト2基、水上機2基を搭載するようになりました。
それに伴い、揚収用のデリックと格納庫も設置され、まとめて後部煙突と3番砲塔の間にまとめられています。

最後に、帝国海軍の艦艇で切っても切れない魚雷です。
「妙高型」では強引に中甲板に突っ込んだ魚雷ですが、「高雄型」ではついに魚雷の性能向上が実現し、上甲板に設置しても誤作動が起こらないようになったのです。
これにより、誘爆の被害を抑えることができるようになりました。
また、設置場所もできるだけ外側に寄せ、旋回させると魚雷発射管の先っぽが艦の外に飛び出るようになっています。

そして画期的なのが、次発装填装置の導入でした。
これまで魚雷の装填には20分以上の時間がかかっており、また車両を用いた人力での装填ですから戦闘中の装填は非常に困難でした。
しかしこの次発装填装置を使うと、魚雷発射管の向きを元に戻したら自動で魚雷を発射管の中に装填することができるのです。
所要時間約3分、とんでもない速さでした。
「高雄型」は重量の関係で「妙高型」の三連装から連装へとグレードダウンしてしまい、片舷2基4門となっていました。
しかしこの次発装填装置のおかげで、疑似的に片舷4基8門に限りなく近い雷撃能力を身に付けることができたのです。

また艦内環境では居住性が大改善され、通気性がよく非常に快適だったそうです。
厨房も艦隊旗艦司令長官以下将校が揃って乗艦する船ですから、かなり気合の入った設備を抱えていました。

こうして完成した「高雄型」は、「条約型巡洋艦」として基準排水量10,000t以内に全く収まりませんでした。
まぁ見た目通りの重量超過で、実際は11,350tと1割以上オーバーしています。
結局軍令部の要求をポンポン反映させれば10,000t以下なんて到底不可能で、艦橋の絞り込みができていれば規定内の排水量で収まったのは間違いないでしょう。
馬力は「妙高型」と同じ130,000馬力、缶とタービンは同じですが、12ある缶のうち6つに空気予熱器を取り付けることで性能が上がり、排水量が上回っているにもかかわらず最高速度は35.5ノットと0.5ノットだけ向上しています。

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重巡洋艦
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