夕立【白露型駆逐艦 四番艦】鉄底海峡を赤く染めた悪魔 第三次ソロモン海戦で一騎当千 | 大日本帝国軍 主要兵器
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夕立【白露型駆逐艦 四番艦】

起工日昭和9年/1934年10月16日
進水日昭和11年/1936年6月21日
竣工日昭和12年/1937年1月7日
退役日
(沈没)
昭和17年/1942年11月13日
第三次ソロモン海戦
建 造佐世保海軍工廠
基準排水量1,685t
垂線間長103.50m
全 幅9.90m
最大速度34.0ノット
航続距離18ノット:4,000海里
馬 力42,000馬力
主 砲50口径12.7cm連装砲 2基4門
50口径12.7cm単装砲 1基1門
魚 雷61cm四連装魚雷発射管 2基8門
次発装填装置
機 銃40mm単装機銃 2基2挺
缶・主機ロ号艦本式缶 3基
艦本式ギアード・タービン 2基2軸


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「ソロモンの悪夢」 世界でも際立つ夕立の戦い

1つの海戦での貢献度では【雪風・時雨】はおろか、世界を見渡しても傑出している【夕立】です。

【夕立】【村雨・春雨・五月雨】とともに第二駆逐隊を編成し、第四水雷戦隊に所属。
太平洋戦争開戦当初から南方での作戦に従事しています。

「ビガン攻略作戦、バリクパパン攻略作戦、スラバヤ沖海戦」
と立て続けに戦線を広げる戦いに参加し、連合軍を追いやっていきました。
昭和17年/1942年5月には吉川潔中佐が艦長となり、続く6月の「ミッドウェー海戦」には攻撃部隊として参加します。

「ミッドウェー海戦」後はインド洋で通商破壊を行うことになるのですが、やがて「ガダルカナル島の戦い」が勃発、【夕立】たち第二駆逐隊は再び最前線に投入されることになります。
8月、トラック泊地に到着した【夕立】は早速鼠輸送を行うことになり、またヘンダーソン飛行場の砲撃も行うなど、成果はともかく様々な活躍を続けました。

10月、四水戦旗艦の【由良】が空襲により大破、【夕立】は乗員を救助した後、彼女の介錯を務めることになります。
そして旗艦に【朝雲】を据えた四水戦は、終始大乱戦となった「第三次ソロモン海戦」へと突入します。

「第三次ソロモン海戦」はなかなか壊滅させることができないヘンダーソン飛行場を今度こそ潰すため、挺身攻撃隊を編成。
【比叡・霧島】を中心に、【夕立】もこの挺身攻撃隊に参加します。
しかし挺身攻撃隊は度重なるスコールに邪魔をされ、なかなかスムーズに進軍することができません。
そしてこの荒れた海の中で陣形も崩壊し、今米軍に責められれば圧倒的に不利になります。
そこへ単縦陣で隊列を組んでいた米艦隊が登場。
日本はたちまち窮地に追いやられてしまいます。

しかし米艦隊は自軍の陣形は保てていたものの、ぐちゃぐちゃになっている日本の艦隊の全貌が掴みきれていませんでした。
やがて先頭にいる【比叡・霧島】の護衛艦である【夕立・春雨】らしきものを確認し、砲撃準備に入ります。
が、その指揮が艦隊にうまく伝わっておらず、米軍には混乱が生じました。

それを狙ったわけではありませんが、【夕立・春雨】は米艦隊を発見、そして何を思ったか、遮二無二突撃していきます。
この時すでに【夕立】は7隻の艦影を確認していたと言われており、つまりは駆逐艦2隻で7隻以上の艦隊に挑んでいるのです。
実はこの特攻こそが最大の功績であると言われることもあります。
これによって指揮が統制されていなかった米艦隊は一気に大混乱。
突然突っ込んできた2隻の駆逐艦に面食らった米艦隊はその突進を避けようとし、たちまち陣形が壊れてしまいます。
一方日本側も突然護衛の駆逐艦が航路を変更して突っ込んでいき、さらにその先には米艦隊を確認。
日本側はもともと陣形が崩れていたので、こちらもまとまっての行動は不可能でした。

艦隊内をかき乱した【夕立・春雨】のおかげで、【米ニューオーリンズ級重巡洋艦 サンフランシスコ】【米アトランタ級軽巡洋艦 アトランタ】を誤射してしまいます。
やがて【春雨】ともはぐれた【夕立】は(【春雨】は米艦隊の中を抜け出し、魚雷装填に入ってました)、後方から、米艦隊に照射砲撃を繰りだそうとしている【比叡】に気が取られているうちに魚雷発射準備を行います。
そして、とにかく徹底して撃ちまくることになるのです。

一方日本の艦隊は【五月雨】【比叡】を機銃で誤射。
もともと距離感がつかめていなかった上に夜戦ということもあり、立て直すにはかなりの時間がかかりました。

【夕立】はここから狂った様に暴れ回ります。
【比叡】から放たれた光は【夕立】に獲物の存在をしらしめ、【夕立】は主砲を震わせ、魚雷を片っ端から発射します。
さらに米艦隊の攻撃は【比叡】に集中しており、再び艦隊内を駆け巡る【夕立】を敵と認識する余裕がありませんでした。

【夕立】は再びこの艦隊から抜け出るまでただの一発も攻撃を浴びることはありませんでした。
近距離からの砲撃でしたので、主砲の威力は普段の比ではありません。

【米グリーブス級駆逐艦 アーロンワード、マハン級駆逐艦 カッシング】
が大破、さらに至近距離で【アトランタ、ベンソン級駆逐艦 バートン】魚雷を叩き込んでいます。
【米ポートランド級重巡洋艦 ポートランド、米アトランタ級軽巡洋艦 ジュノー】にも損害を与え、戦果は「軽巡・駆逐艦各1隻 撃沈、駆逐艦2隻 大破、重巡・軽巡 撃破」という、まさに桁外れ、身の丈に合わないずば抜けたものとなりました。

しかし艦隊から抜け出すと、米艦隊の攻撃は途端に【夕立】に集中します。
どれだけ大戦果をあげようとも、体躯は小さな駆逐艦です、集中砲火に耐えきれるわけもなく、【夕立】はたちまち大炎上します。
この中には日本からの誤射も相当含まれていると思われ、戦訓には識別強化を訴えるものがあります。
ただ、この海戦においてはなかなか厳しいのではないかと思います。

米艦隊を叩き潰した【夕立】はその報復を受け、風穴が開くほどの被害が出て航行不能。
最後は帆を張ってでも動こうとしたようですが、【五月雨】の魚雷によって自沈処分されることになります。
しかし2発放たれた魚雷はともに【夕立】を避けてしまいました。
再発射も検討されましたが、米艦隊は壊滅したわけではありません、このまま居座ると【五月雨】にも被害が出ることが予想され、結局【五月雨】【夕立】を残してその場を去りました。
その時、救助された吉川艦長「もう一度戻って、【夕立】を処分してくれないだろうか」とお願いをしていたと言われています。

残念ながら【夕立】は砲撃を与えた【ポートランド】によってソロモン海に沈んでいくことになりました。

【夕立】のこの獅子奮迅の働きぶりは駆逐艦にも関わらず、戦闘詳報では個別項目を設けられるほどのものでした。

戦闘詳報には、
「夕立は緒戦において大胆沈着、能く大敵の側背に肉薄強襲し、夜戦部隊の真面目を発揮して大なる戦果を収むるとともに、全軍の戦局に至大の影響を与えてまず敵を大混乱に陥れ、かつ爾後もっとも勇敢に戦機を看破して混乱に陥れる敵中を縦横無尽に奮戦せるは、当夜の大勝の端緒を作為せるものといふべく、駆逐艦長以下乗員が数次の戦闘に錬磨せる精神力、術力を遺憾なく発揮せり。その功績は抜群なるものと認む。」
とあります。

しかしあまりにも敵味方に混乱をきたした戦いであったため、【夕立】は正確な戦果がどのようなものなのか、実は判明しておりません。
今まで記載した内容も、恐らくは過剰かもしれませんし、特に撃沈記録に関してはもはや確かめる術がございません。

なお、「第三次ソロモン海戦」はその他多数の戦果と引き換えに多数の被害も受けています。
指折りの乱戦となった「第三次ソロモン海戦」の顔とも言える【夕立】ですが、しかし「第三次ソロモン海戦」は結局敗北し、日本は「ミッドウェー海戦」に続き大きな分岐点で憂き目を見ることになるのです。