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なぜ「大和型」は「大和型」でなければならなかったのか その3
Why the “Yamato Class” had to be the “Yamato Class”?

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「テキパキ」は要点以外の情報を削った表示ですので、前後の文に違和感が残ることがあります。


  1. なぜ「大和型」は「大和型」でなければならなかったのか
  2. 27ノット戦艦への私見
  3. 妥協の産物となった「A140-F6」

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妥協の産物となった「A140-F6」

話を戻して、もともとの軍令部の希望は46cm砲8門以上、30ノット以上でしたが、これが27ノットに低下してしまいました。
前述の私見とは別に現実問題として、この2つを両立させるのはハードルが高すぎました。
8門以上ということは、連装砲4基か3連装砲3基もしくは連装・三連装の組み合わせ、四連装砲2基となりますが、どのタイプでも砲塔がめちゃくちゃ大きくなります。
そして砲塔のサイズに合わせるだけではなく、砲撃の際の衝撃に耐え切るためにも、艦幅はこれまでの戦艦よりも遥かにゆとりをとらなければなりません。
これは前述の通り「アイオワ級」も同じ憂き目にあっており、16インチ三連装砲3基の砲撃は約33mの艦幅では十分ではありませんでした。
46cm砲搭載案では、連装・三連装問わずみな艦幅38m以上です。
そして「友鶴事件」の記憶が新しい時期ですから、復原性を軽視することはできませんでした。

「大和型」の強さの象徴である46cm砲を8門以上、そして当然ながらその主砲に耐えうる防御力、さらに復原性を維持し、かつ30ノットを発揮するためには、全体のバランスを取らざるを得ません。
最大の幅が広くなればなるほど、高速化を実現するにはその艦幅にあわせて全長を伸ばして凌波性を高める必要があります。
また「アイオワ級」が出てきますが、「アイオワ級」は全長が270.4mで、完成した「大和型」の263mよりも7.4m(「大和型」比103%)長いです。
ちなみに「アイオワ級」の艦幅は32.97m(同84.7%)、排水量は48,400t(同75.6%)ですから、非常にひょろがり、もといスマートです。
「アイオワ級」の場合はパナマ運河の影響もあるので、艦幅に限度があったことも原因ですが、やはり30ノットという速度を出すためには全長を引き延ばさざるを得ませんでした。

「大和型」も同様に、30ノットを発揮するためには更なる巨大化は避けられませんでした。

全長が伸びると排水量やそれに影響する航続距離、馬力不足、またバイタルパートの広さなどにも影響が出てきます。
予算や港湾設備の問題もあって、「大和型」はできるだけ小さく造る必要があり、防御と速度の二者択一が迫られていました。
軍令部の要求に沿って設計されたのはおおよそ「A140-A」に相当しますが、口径が50口径とは言え公試排水量68,000t、全長277m、最大出力200,000馬力と、「A140-F5」と比較しても大型・強力です。
この調整の中で藤本の急逝もあり、福田啓二大佐と、その後ろに立つ、嘱託という形ではあるものの事実上の最高責任者となった平賀譲の意向に沿って徐々に速度が蔑ろにされていきました。

その結果、最終的に「大和型」の設計としてまとまったのは「A140-F5」、46cm三連装砲前方2基、後方1基の配置、そして最大速度27ノットという性能でした。
軍令部がかつて主張した30ノットという速度は、「友鶴事件」で重要視された復原性と、アメリカが採用するとは到底思えない46cm砲の優先度が非常に高かったことから、諦めざるを得ませんでした。

しかしこの27ノットという速度もバルバス・バウあってこそです。
攻撃・防御を重視した結果損なわれた速度ですが、その低下幅を何とかして軽減するため、設計が「A140-F5」案に落ち着くころに研究が急ピッチで進められました。
このバルバス・バウの成果をあげるために50以上の模型が製造されています。
バルバス・バウが大きく寄与するのは燃費ですが、最大出力を発揮した時の抵抗が減るということは疑似的に出力の上限が上がるわけですから、最大速度にも十分影響します。
「A140-F5」のタイミングということは、27ノットというハードルすらギリギリ超えることができたということですから、やはり30ノット維持の「大和型」建造はかなり大きな壁だったのでしょう。

話は変わり、「大和型」のもう一つの目玉に、戦艦にディーゼル機関を採用するというものがありました。
言うまでもなく機関の主流は蒸気タービンでしたが、蒸気タービンは燃焼効率が悪いことと、ボイラーとタービンをセットで搭載することが決まっているため、排水量増、スペースを取る上に煙突も大型化するという問題がありました。
日本は自国で資源を調達することができない癖に活動範囲が非常に広いため、これまで各艦種で長い航続距離が求められました。
この問題を解決する方法が、排水量削減と燃焼効率のいいディーゼルを搭載することでした。

経済性の問題から他国もディーゼルの研究を行っていて、特に煙突が不要になる恩恵を多く受ける潜水艦にはディーゼル機関が採用されています。
日本も同様で、潜水艦に搭載するために輸入していたディーゼルを元に徐々に技術力を磨いていきました。
しかしディーゼルは構造が複雑なため精密性が求められる機関で、そう易々と成果を出すことができませんでした。
それでも昭和8年/1933年から建造が始まった「伊68型潜水艦」には初めて国産ディーゼルである艦本式1号甲8型ディーゼルが搭載され、ここからより高出力のディーゼル開発に力が入りました。

そして今度は多種多様な取り組みが施されることになる【大鯨】に水上艦用の大出力ディーゼルを搭載することが決まりました。
この経緯もあって、「大和型」の設計はディーゼルオンリーもしくはディーゼルとタービン併用が大半を占めています。
藤本案では当初はオールディーゼルを訴えていました。
無論、ディーゼル開発に成功すれば大きな燃料節約とサイズ縮小に繋がるからです。
具体的には45,000馬力:タービン、70,000馬力:ディーゼルの併用はタービンオンリーの115,000馬力より燃費が3割も削減できます。
そして世界最大の戦艦がディーゼル機関のみで30ノットを発揮すれば、ディーゼル技術もあっという間に世界トップクラスになることも間違いありません。

しかしさすがにこれは冒険心が過ぎました。
まだ確立したとは言えないディーゼル、また大出力を安定して出すことではタービンが勝るため、やがて双方の長所を活かすためにディーゼルとタービンの併用という構成で話は進んでいきます。
機関は速力にばかり影響するものではありません。
船内の動力も多くが機関から発生するエネルギーを利用していて、特に主砲旋回にはボイラーの高出力が欠かせないということになり、ディーゼルだけでは何かと不便だということで併用案に落ち着きました。

併用する場合、ディーゼル2基が外側、タービン+ボイラーが内側に配置されることになります。
タービンやボイラーは被弾すると高温の熱気や蒸気が大量に噴出して死傷者が溢れかえりますが、ディーゼルはこのようなことが起こらないし、ディーゼルのほうが重量が重いので衝撃にも強いため防御に向いているからです(その後も動くかどうかは別として)。

紆余曲折を経て、すでに両条約から解放された日本は早速次期主力戦艦「A140-F5」の建造の準備に取り掛かります。
条約脱退後初の建艦計画である「マル3計画」「A140-F5」2隻分の予算概算要求が提出されました。
対外的には、今度の戦艦は古くなった「金剛型」の35,000t級代艦2隻分であるという名目での要求です。
計画では1隻辺り排水量35,000tで建造費9,800万円として提出されています。

しかしこの予算にはからくりがあり、別に「甲型駆逐艦」3隻分と「伊号潜水艦」1隻の予算がそっくりそのまま「A140-F5」に回されることになっていました。
これは「A140-F5」の予算を見積通り計上してしまうと、予算規模から戦艦の規模がある程度予測がついてしまうからです。
軍艦の規模を知るにはいろんな方法があるのですが、当時の日本の物価をベースに1tあたりの鉄の単価さえあたりが付けば、後は予算から計算してだいたい排水量どれぐらいの規模の戦艦になるかはあっさりはじき出せます。
そして排水量がこれぐらいの規模だと口径はこれぐらいが想定されるから、日本がとてつもない戦艦を建造するつもりだぞとはい想定完了です。
なので「A140-F5」は存在そのものの隠匿に心血を注いだだけでなく、誕生する前からひた隠しにされていたわけです。

実際の「大和型」の建造予算は1隻辺り当時の価格で1億3,500~4,500万円(どこまでを建造費に含めるかで結構バラつきがあります)。
「マル3計画」には「翔鶴型」の建造も含まれていますが、「翔鶴型」は2隻で1億6,900万円なので、「翔鶴型」2隻で「大和型」1隻しか造れないわけですから、やばさが際立ちます。

1隻辺りの予算は国家予算の3%ほどと言われていまして、これが計画では最大4隻ですから、単純計算で戦艦4隻に国家予算の1割超を突っ込むことになるわけです。
現在の価値に換算(約1,500倍として)するとだいたい2,100億円ぐらいになると思います。
ちなみに2021年時点での最新のヘリ搭載護衛艦である【かが】は建造費約1,200億円ですから、倍近い金額になってしまいます。

ところが「A140-F5」は起工前から躓きます。
燃費のことも考えて搭載予定だったディーゼル機関が、【大鯨】で不具合を頻発させたのです。
「伊68型潜水艦」で成功したとはいえ、この時の1基8気筒の馬力はおよそ4,500馬力。
対して【大鯨】やその後の【剣埼】【高崎】に搭載された11号10型ディーゼルエンジンは10,000馬力超と倍以上の性能で、かなり挑戦的な新ディーゼルでした。
結果的にこれが大失敗で、出力は半分しか出ないし、排煙はすごいしと問題だらけ。
帝国海軍でディーゼル機関をバリバリ動かすことができた水上艦は【日進】だけと言っていいでしょう。

実は11号10型ディーゼル問題もあって、海軍は「大和型」搭載予定だった13号10型ディーゼルの試験とその結果を急いで提出し、13号10型ディーゼルは144時間連続運転に耐えることができたから採用しても問題ないと訴えました。
そもそもまだ技術力が伴っていないディーゼル開発を無理に急がせた11号10型ディーゼルが失敗するのは当然で、急いては事を仕損じるの典型的な例でした。
しかしすでに平賀の腹のうちは決まっていて、排気に多少の煙がまじること、ピストンリングの折損が少し多いこと、シリンダライナやピストン胴環の磨耗が確認されることの問題、そして何と言っても11号10型ディーゼルの不安が解消されたとは言えないということで、ディーゼル搭載の夢は露と消えました。
ちなみにこの13号10型ディーゼルが【日進】に搭載されたディーゼルでしたから、結果論ですが、「大和型」に搭載してもさしたる問題がなかった可能性は十分あります。

とはいえ現実問題として機関不調で膨大な修理時間を要する危険性があるディーゼルと、燃費は悪いが早々ぶっ壊れることはない安心と信頼のタービンで、工期がほぼ決まっている中でディーゼルを選択するのも非常に勇気が必要です。
なにせ今度の戦艦は世界最強ですが、この世界最強戦艦がいないタイミングを狙って一気に攻め込まれると何もかもが無駄になってしまいます。
戦艦や兵器は、まず使える状態で存在していることが重要です。
工事中でしばらく出てこないのを知って、今攻めると可哀想だよねと思ってくれる敵がどこにいるでしょうか。
「大和型」にとって不幸だったのは、責任者が平賀であったことというよりも、計画、建造がこのタイミングであったことでした。
ディーゼル研究速度があと1年でも早ければ、と悔やまれる技術でした。

この結果「A140-F5」は蒸気タービンオンリーの「A140-F6」で建造することになりました。
このおかげで排水量は3,000t、全長は3mも伸びるし浮力も減るしと、簡単に計画変更していますが随分無理矢理ことを進めています。
この影響でさらに追加予算が計上されていますが、今回の予算の隠れ蓑は【比叡】【蒼龍】の改装費用でした。

呉工廠造船部で設計を担当していた牧野茂(当時少佐)は、この報告を福田啓二(当時少将)から受けた時にちょうどイギリスのジョージ6世戴冠観艦式に出発する直前だったため、この急転直下の出来事にもほとんどの修正作業を部下に任せなければならない歯がゆさを感じていました。
牧野は「第四艦隊事件」直前の【叢雲】のしわを調査した人物で、直感力に長けており、この後の設計でも独自で手を加えて改善をするなど、思い切ったことをしています。

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