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大鳳【航空母艦】その2
Taiho【aircraft carrier】

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  1. 空母最大の弱点である飛行甲板ガチガチ計画
    1. 飛行甲板
    2. その他の防御
    3. 艦橋・煙突
    4. 構造・格納庫
    5. その他
  2. 底腹に装甲はない 魚雷1本で負の連鎖
  3. 大鳳のガソリンタンク
  4. G15改大鳳型とG14新型空母
「テキパキ」は設定上、前後の文脈や段落に違和感がある場合があります。


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底腹に装甲はない 魚雷1本で負の連鎖

昭和19年/1944年5月 あ号作戦直前の対空兵装比較
高角砲65口径10cm連装高角砲 6基12門
機 銃25mm三連装機銃 18基54挺
25mm単装機銃 25基25挺(すべて橇式)
電 探21号対空電探 2基

出典:[海軍艦艇史]3 航空母艦 水上機母艦 水雷・潜水母艦 著:福井静夫 KKベストセラーズ 1982年

「大和型」のように秘密だバラすなと胃がキリキリするプレッシャーはなく、【大鳳】は神戸駅から日々成長していく姿がよく見えました。[12-P58]
しかし「ミッドウェー海戦」後は空母空母空母と事態は一変し、それは造船所でも同じで、戦訓を取り入れた追加工事が現場を苦しめました。
火災対策のために木材と可燃性塗料は次々と撤去され、また浸水を防ぐために舷窓も全部塞がれました。
バルジに魚雷が命中しても、バルジや浮力の喪失を防ぐためにパイプを何本も突き刺すという突貫補強も行われています。[6-P93]

そんな苦労を尻目に、軍令部からは当初予定されていた昭和19年/1944年6月竣工の予定を3月7日と3ヶ月短縮するように要求がありました。
この決定が昭和18年/1943年秋ごろだったため、いきなりあと半年で完成させなければならなくなりました。[4-P134]
結果沈んでしまったとはいえ「マリアナ沖海戦」に間に合ったので、この短縮は存在価値そのものを左右するぐらい重要だったと言えます。

完成後は【翔鶴】より第一航空艦隊旗艦の座を引き継ぎ、苛烈な訓練が始まりました。
日本は「あ号作戦」のために戦力を結集させており、空母大小9隻、戦艦5隻、巡洋艦13隻、駆逐艦23隻と連合艦隊勢ぞろいという面々でした。
航空機の数も約600機と過去最大級の航空戦力がこれに続いたのです。
しかし訓練場となったタウイタウイ泊地は米潜水艦が根城にしており、ただでさえ練度不足が問題視されている中で満足な訓練ができずにいました。

空母の訓練でも重要なのは発着艦訓練です。
これができないとまず攻撃に向かうこともできませんし、生きて帰ることもできません。
発着艦の場合は合成風力を発生させるため、ある程度の距離を空母は転舵することなく高速で走る必要があります。
この時が一番空母が無防備になるので、潜水艦がいるかもしれない海で発着艦訓練を行うのは博打でしかないのです。
結局【大鳳】はタウイタウイにいる間に2回ぐらいしか本格的な訓練ができませんでした。[6-P94]

【大鳳】には嫌な出来事がほかにもありました。
これは【大鳳】だけに限ったわけではないのですが、この時21号対空電探1基の調子がかなり悪かったのです。
電探は電探そのものというより構成する部品の質が問題で、特にこの時期は質の高い部品の調達が難しい時期でした。
加えて高温多湿な環境にも弱く、結局この故障は最低限の機能回復に留まり、【大鳳】はもう1つの21号対空電探だけで実質戦ったようなものでした。[2-P220]

さらには死亡を伴う事故も発生しています。
6月13日、「あ号作戦」が近くなり、せめて陸上での訓練をと、機動部隊はギマラスへ移動します。
この時対潜哨戒のために【天山】が上空から見回りを行っていて、【天山】が着艦準備に入りました。
ところが着艦に失敗してもう一度体勢を整えようとしたところ、失速してしまいそのまま甲板上にいた【九九式艦爆】に衝突してしまったのです。
この事故により【天山】の搭乗員1人の他整備員も7人が死亡。
機体も【天山】1機と【九九式艦爆】【零式艦上戦闘機】それぞれ2機が炎上喪失し、嫌な空気はより強く【大鳳】にまとわりつきました。[6-P94]
なおこの被害については、訓練中の機体が着艦時に次の発艦準備中の機体に衝突したという証言もあります。[4-P143]

19日、連合艦隊はマリアナに現れた敵部隊に迫っていました。
索敵によりついに敵機動部隊を発見し、決戦の時を迎えた【大鳳】は速度28ノットを維持。
午前8時前から【零戦、天山】【彗星】の第一次攻撃隊42機の発艦が完了します。[12-P59]

ちなみにですが、この「マリアナ沖海戦」では日本は敵機動部隊を何度も発見し、陸上からも含めて攻撃をしかけていましたが、アメリカは航空機による索敵に失敗しており、その点だけを見れば日本が優位でした。
しかし戦果は裏腹に非常にお寒いものです。

他の空母からも艦載機が飛び立ち、甲板では彼らの戦果を夢見て帽子が力強く振られています。
その姿を遠くから睨みつける存在には、まだ誰も気付いていませんでした。

【米ガトー級潜水艦 アルバコア】、またお前かと海軍の恨み辛みを一身に浴びるトラウマ潜水艦です。
機器の故障により【アルバコア】は危険を承知で潜望鏡を一瞬だけ海面から出し、ターゲットの位置を確認すると、距離4,800m(8,000m?いくら何でも遠すぎると思うけど、速度を落とせばギリギリ射程内[12-P59])とかなり遠距離から【大鳳】へ向けて6本の魚雷を発射しました。
【アルバコア】の存在に、発艦作業中だった【大鳳】も護衛艦も誰も気づかず、雷跡を見て初めて各艦行動に移ります。
この雷跡を発見した【彗星】が1機、突然進路を変えて魚雷に突っ込んでいきました。
魚雷にぶつかって自爆覚悟で【大鳳】を守ろうとする決死の突入だったのですが、残念ながら魚雷を止めることはできず、【彗星】はそのまま海中に没してしまいました。[5-P100][6-P94]

食い止められなかった魚雷はどんどん【大鳳】に迫ってきます。
この【彗星】の謎の動きから【大鳳】は雷跡が迫っていることにようやく気付きました。
すぐさま舵を取って魚雷に艦首を向けた【大鳳】でしたが、8時10分、間に合わずについに1本が【大鳳】の右舷艦首、ちょうど前部エレベーターの真下辺りに直撃します。
ですが一時速度が落ちたものの損傷は大きくなく、注水作業により前後左右の傾斜はすぐに回復され、航行には全く支障がないように見えました。
水雷防御が徹底された箇所への命中ではありませんでしたが、艦首付近の1本被雷程度では致命傷にはなりづらいです。
被害は食い止められ、【アルバコア】も駆逐艦の接近を見て潜航撤退、どうやら【大鳳】の危機は去ったようです。

しかしこのたった1本の魚雷から、【大鳳】の命を着々と削る事態が発生していました。
被雷によって前部ガソリンタンクが損傷し、中からガソリンが漏れ出てしまったのです(配置的に前部エレベーター真下の第一、第二ガソリンタンクしか考えられませんが、意外とどのタンクかが明示されていない)。

出典:『船体の強度と安全』山本善之

一方で、【零戦】を乗せて上昇中だった前部エレベーターが衝撃で滑車から外れてしまい、歪んだまま1m落下した状態で停止してしまいます。
このままでは飛行甲板に大穴が開いた状態になるので、穴を塞がないと帰ってきた攻撃隊の着艦ができません。
それに海風に晒され続けると塩害にもつながるので、机やマットをドカ積みしてなんとか高さを稼ぎ、その上に木材を渡して応急的に穴を塞ぎました。[5-P101][6-P95]

エレベーターの修理が総出で行われたのですが、先ほど漏れだしたガソリンが気化しはじめ、艦内に充満していきました。
当然有毒ですし、そもそも少しでも火の気があればすぐに引火してしまいます。
ありとあらゆる場所を開放して換気しますが、ガソリンの流出がある限りは気化も止まりません。
作業はもちろん火気厳禁、防毒マスクをしていても徐々に脱落者が出はじめます。

やがてガソリンタンクの隣の弾薬庫からはガスの充満が酷く撤退するという連絡がありました。[4-P159]
このままだと格納庫は毒ガス室になってしまうので、止むを得ず艦内の第一次戦闘配備を解除して、後部エレベーターは基本的には降ろしたままとし、通路を含めた通風換気を徹底させたのですが、全然抜けきらないので塞いだ舷窓を片っ端から割っていくほどの事態でした。[6-P95]

ガソリン漏れやエレベーターの故障でバタついている【大鳳】でしたが、肝心の攻撃隊にも問題が生じていました。
出撃から約30分後、前衛部隊からある通信が飛んできました。
「航空機見ゆ、敵味方不明」「艦上機約100機」
そして次には攻撃隊から「味方水上部隊より攻撃を受く」という通信があり、ここでなんと同士討ちが発生してしまったのです。[4-P99]

しかしこの誤射は、前衛部隊の早とちりではなく、攻撃隊の飛行経路に問題があったと言われています。
今回のような誤射が起こりうるため、基本的には味方の上を航空機は飛ばないように決まっています。
前衛部隊は上空に現れた機体に対して威嚇射撃を行っています。
つまり「こっちはおたくが敵か味方かわかってない」という合図なわけです。
それに対して攻撃隊は何も行動に変化がなかったため、急いで対空射撃を行った結果というわけです。

その傍ら、【赤城】ら亡き後日本の機動部隊を牽引してきた【翔鶴】【米ガトー級潜水艦 カヴァラ】の雷撃によって炎上します。
こんな最中に聞きたくなかった悲報に続き、今度は我が艦から発艦した第一次攻撃隊が帰ってきました。
4機だけ。

【大鳳】から発艦した攻撃隊は総数42機でした。
そのうち帰還できたのはたったの4機だけでした。
アメリカの艦隊の上では「マリアナの七面鳥撃ち」と蔑まれる航空機狩りが行われていて、練度の低いパイロットを豊富な対空機銃と迎撃機、さらには超秘密兵器とも言える「VT信管(近接信管)」も現れて日本の機動部隊はズタボロにされていたのです(当時のVT信管比率はまだかなり低い)。

その後も第三次から第六次まで攻撃隊は発艦していますが、しかし結局敵空母に到達できたのは第一次、第二次のみ。
残りは全て針路を誤るなどで攻撃目標を見つけることができず、逆に迎撃されたり不時着したりと、こちらも戦果は残せていません。

死と隣合わせの空間で奮闘する【大鳳、翔鶴】でしたが、ついに14時10分に【翔鶴】は怨嗟の叫びを上げて乗員を飲み込みながら沈没。
そして死神はすぐにその鋭い鎌を【大鳳】の首へと向けるのです。

【翔鶴】沈没から20分後、第二次攻撃隊の着艦失敗機が飛行甲板へ突入。
爆発はまさにその瞬間だったと言われています。
爆発の原因は様々挙げられていますが、いずれも確証がありません。
わかっているのは気化したガソリンに引火したことだけで、爆発の個所、順番、規模も全く謎です。
格納庫だけで1発の大爆発が起こるぐらいガソリンが充満していたら、もう作業なんてできず全員中毒死しているはずです(計算上、6時間以内に1,050kg以上の気化ガソリンが充満しなければならず、いろいろあってこれはかなり非現実的)。[12-P63]
燃えやすい酸素と燃えるガソリン、そして密閉空間であることから状況から混合ガス爆発である可能性が非常に高く、これは瞬間的な高温、圧力の上昇などが連鎖して、爆発の威力が増大しながら広がっていくため、とてつもない大爆発のように感じたのではないでしょうか。[12-P70]

爆発が発生したのは14時32分。
実は14時ごろ、エレベーターの修理は終わっていたという証言もあります。[12-P69]
重厚な飛行甲板は灼熱で溶ける個所もあれば格納庫の爆発の衝撃で火口のように膨れ上がった場所もありめちゃくちゃで、気化ガソリンを外部に逃がすことができなかった艦内では連続して爆発が発生。
艦内爆発の衝撃を軽減するために爆風が側面から吹き出るような構造になっていた【大鳳】は、その通り側壁をぶち破って黒煙と火焔に覆われ始めます。
後方で護衛をしていた【羽黒】からは、爆風とともに乗員や艦載機が吹き飛ばされる姿が目撃されています。
みるみるうちに火達磨になった【大鳳】は、その後も大小の爆発が続きました。

艦内では消火活動が行われましたが、爆発の影響であらゆるものが故障し全く歯が立ちません。
機銃の弾丸が誘爆により破裂し飛び散るので、救助のために近くにいた駆逐艦もおいそれと【大鳳】には接近できません。
【大鳳】から脱出した司令部は、奇跡的に被害を免れたカッターでなんとか【若月】までたどり着き、その後【羽黒】で指揮が続行されました。

他にも【磯風】が危険を顧みず船を寄せ、生存者を次々に助け出しましたが、ついに【大鳳】は力尽き、左舷への傾斜を強めながら艦尾から沈んでいきました。
その時16時28分、被雷から8時間後、最初の爆発から2時間後の出来事でした。
艦長である菊池朝三大佐は自らを後部デッキにロープでぐるぐる巻きにして【大鳳】とともに沈む決意だったのですが、沈没の際に何かの衝撃でロープがほどけるか切れるかして、気絶した状態で浮かび上がったところを【磯風】に救助されています。
乗員2,500名ほどのうち、生存者は500~700名ほどと言われています。[12-P59]

【大鳳】の沈没の謎として、実はこの沈没の直接の原因もわかっていません。
例えば【赤城】はあれだけの大火災を引き起こしながらも格納庫より上の被害が甚大だっただけで、水線付近の被害がなかったためにずっと浮き続けました。
【加賀】も同じく格納庫の爆発が連鎖しましたが、ガソリンタンクの爆発が沈没の直接的原因だとされています。
【大鳳】の場合は状況としては【赤城】に似ていて、上半身が丸焦げになってもそれは痛々しいだけで沈むと同義ではありません。
必ず下半身に浮力不足や傾斜を促進させる原因があり、【大鳳】の場合は左舷傾斜と艦尾から沈んでいるという証言があり、右舷前部の被害とは全くの逆ですから、左舷後部で何かしら致命傷となる被害があったと考えるのが自然でしょう。

【大鳳】は、建造時に見込まれた危機からは耐えることができたものの、それによって発生する副次的な事態への対応が悪かったため、竣工からたった103日、初陣で沈んでしまいました。
艦橋がどれだけこのガス漏れを深刻にとらえていたかはわかりませんが、結果を見れば着艦を優先せず、空母の役割を一時的にでも放棄して、まずガソリンの流入を最優先し、エレベーターの開口部を塞がず換気を徹底すればこんなことにはならなかったかもしれません。
残念ながら帰還機はわずか4機だったので、かくかくしかじかで他の空母に着艦するように指示し、ガス漏れを塞ぐことに全力を注ぐべきだったと思われます。

大鳳のガソリンタンク

ガソリンタンクを単体でわざわざ扱うのは【大鳳】ならではですが、少し深掘りできそうなのでやってみましょう。
そしてここでは、時系列の中で詳細に書くと冗長になるので、防御面から被害の推測までまとめて触れておきます。

ガソリンタンクは機関を前後で挟む配置になりますが、当然これらの防御も徹底する必要があり、ガソリン庫の上部にあるエレベーター室の床は、高度3,000mからの800kg爆弾、距離12,000~20,000mからの6インチ砲弾に耐える装甲が張られていました(75mmCNC鋼?)[12-P61]
加えてガソリン庫の周辺には意図的に幅90~100cmほどスペースが設けられていて、底面に関してはそのスペースの下に重油タンクを配置した二重底になっています。
これは万が一ガソリンタンクやガソリン庫が破損しても、漏れたガソリンをこのスペース内に留める役割を持っていました。
ガソリンタンクそのものも10mmの厚みを持っていて、これは直接的な被害を抑えるというよりスプリンター防御のためでしょう。[12-P61]

『海軍造船技術概要』によると、戦闘時にはこの空所に海水を流し込み、万が一ガソリンが漏れ出ても海水に混ざって引火を防止することになっていたようですが、本書以外にこの対策が書かれた資料を個人的には見つけていません。
スペースに海水が満たされるのにはだいたい30分かかるようです。[12-P62]
それでもあんな結末を迎えたという事は、第一に当時は海水でスペースが満たされてはいなかったことがわかります。
そして第二に、【大鳳】の船殻設計を担当した川崎造船所の吉田俊夫技師は、あくまで個人の見解として、溶接の不備がガソリン漏れを引き起こしたのではないかとしています。[4-P138]

実際に腕の立つ工員が召集により次々と抜けていき、配管工事の気密性には難があることを皆が認めており、せいぜい「空気漏れを少なくする」ぐらいしかできなかったと言います。[12-P62]
それ以外にもスペースの都合上ガソリンタンクを舷側すれすれに配置しなければならなかったのも、通常の2倍の燃料を搭載するために目をつむった点でしょう。

ちなみにガソリンタンクは全て溶接で形作られたのですが、これは【龍驤】以降、つまり大半の空母のガソリンタンクは全溶接だったことがわかっています。
鋲打ちだとやっぱり隙間ができてしまうので、溶接技術があるのならこちらを選ばない理由はありませんでした。[12-P60]

ガソリンが格納庫にまで流出した更なる原因と考えられるのが、装甲の鋲打ちです。
確かにタンクは溶接だったのですが、75mmCNC鋼ほどのごつい装甲は溶接では接合できないため、エレベーター室の床面は鋲打ちで固定するしかありません。
そして鋲打ちの接合×被雷で思い出されるのが、「大和型」の被雷による膨大な浸水です。
被雷のような面衝撃を受けると、装甲は大丈夫でも装甲を固定している接手が破損する可能性があるため、【大鳳】もこの衝撃でガソリン庫の天井の装甲に隙間が生じ、格納庫までガソリンが流出したと思われます。
これは整備分隊長だった吉村嘉三郎大尉が、被雷で隙間ができたエレベーター室の床を格納庫からのぞき込んだら、ガソリン庫に大穴が開き、そこからガソリンが漏れ出ているのが見えたという記憶とも合致しています。[12-P63]

ざっくりまとめると、

1.被雷によりガソリンタンクのどこかが破損しガソリンが漏れて気化し始める。
2.同じくガソリン庫の破損、エレベーター室の床面に隙間が生じ、空気の通り道ができる。
3.被雷により海水か重油か、何らかの液体がスペースに流れ込み、それに押し出される形で気化ガソリンが隙間から格納庫に充満。
4.その後ガソリンを含む液体も格納庫に滲み出しゆるやかに浸水し始めた。

という流れが想像できます。

エレベーター室にガソリンを含んでいるであろう液体が入り込んできたものの、密閉式である【大鳳】からはその液体を外に捨てることができません。
状況から数値を当てはめた計算が『船体の強度と安全』ではされており、一番単純な計算で、最大で深さ1cm程度の液体が格納庫に広がったと思われます。[12-P67]
なので液体の深さそのものが行動を制限したことはないでしょうが、ちょっとでも傾斜するとたちまちじゃぶじゃぶするぐらいには液体がまとわりつきます。
もしこれが重油だった場合、ガソリンの気化と合わせて作業の足を引っ張ったのは間違いありません。

またエレベーターも塞いでしまったので、気化ガソリンは充満する一方でした。
【大鳳】は停止していませんから動くだけでも風は入ってくるため、舷窓や薄い側壁を破ったりもしましたが、穴から入ってくる風よりも強いパワーがなければ内部の空気は外に出ていきませんから、空気とガソリンは格納庫の中でぐるぐる回るだけ。
むしろ通路など艦内の扉を開けまくったり通風機を使って風をそちらへ向けたことから、逆にうすーいガソリンが格納庫以外に広がっていたのが被害拡大につながったことは容易に想像できます。

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G15改大鳳型とG14新型空母

「改大鳳型」は改マル5計画で姿を現した空母です。
【大鳳】から大幅な変更はなく、飛行甲板の延長や長10cm砲の増加、飛行甲板の装甲装着範囲の拡大、水中防御の強化など一部の変化に留まります。[10-P272]
ただし運用面では大きな違いがあり、爆弾および魚雷を直接、飛行甲板まで揚げるための電動釣瓶式揚爆弾魚雷装置の設置が新たに決まっています。
これは「ミッドウェー海戦」の戦訓によるもので、格納庫ではなく飛行甲板上で爆弾や魚雷を搭載するためです。
また発着艦の障害を減らすべく、飛行甲板に張り出しを作り艦橋をより外側に移動させることも決まりました。

基本計画番号は【G15】、5隻の艦名は仮称【第5021~5025号艦】と呼ばれ、昭和21年に1隻、22年と23年に各2隻ずつの完成を目指していました。
工事着手が数回も延期されながらも、その詳細設計は進められ、昭和18年秋以後、そのほとんどが完成したのですが、時期が悪くその年の年末に建造中止が決まってしまいます。[10-P188]

また「改大鳳型」とは異なり、全く新型の45,000t級空母の計画も確認されています。
基本計画番号【G14】という名前でのみ知られている存在で、空母建造の指針から【G13】【大鳳】に続く存在である【G14】も装甲空母である可能性は高いです。
【G14】の計画は開戦前から浮上し、マル5計画でも存在していましたが、改マル5計画で「改大鳳型」「雲龍型」の建造に集中することになり、【G14】計画は消滅しました。
【G14】は陸上攻撃機が搭載できる巨大空母として検討されていた説があります。[7-P102]

艦 名大 鳳5021号型
完成年月S19年3月S18年末設計完了
建造所川崎呉・横・川・長
基準排水量29,300t30,360t
公試排水量34,200t35,300t
全 長260.60m264.50m
水線長253.30m257.00m
水線幅27.70m28.00m
飛行甲板257.5×30.0m261.5×30.0m
格納庫2層2層
エレベーター2基2基
乗員数1,751人1,800人
搭載機数【烈風】24+0機【烈風】18+2機or18+1機
【流星】24+1機【流星】27+0機or36+0機
【彩雲】4+0機【彩雲】6+0機
高角砲長10cm連装6基長10cm連装8基
機 銃25mm三連装22基25mm三連装22基
機 関タービン4基タービン4基
缶 数8基8基
馬 力160,000馬力160,000馬力
速 力33.1ノット33.3ノット
航続距離18ノット:10,000海里18ノット:10,000海里

[10-P271][7-P103]

※公試排水量は予定
搭載機数は一例

1
2

大鳳の写真を見る

参考資料(把握しているものに限る)

Wikipedia
艦これwiki
真実一路
[1]軍艦開発物語 著:福田烈 他 光人社
[2]海軍技術研究所 著:中川靖造 講談社
[3]軍艦開発物語2 著:福田啓二 他 光人社
[4]航空母艦物語 著:野元為輝 他 光人社
[5]空母信濃の生涯 著:豊田穣 集英社
[6]空母大鳳・信濃 造艦技術の粋を結集した重防御大型空母の威容 歴史群像太平洋戦史シリーズ22 学習研究社
[7]日本の航空母艦パーフェクトガイド 歴史群像太平洋戦史シリーズ特別編集 学習研究社
[8]図解・軍艦シリーズ2 図解 日本の空母 編:雑誌「丸」編集部 光人社
[9]近代~現代艦艇要目集
[10]日本空母物語 福井静夫著作集第7巻 編:阿部安雄 戸高一成 光人社
[11]艨艟を訪ねて
[12]船体の強度と安全 著:山本善之 日本船舶海洋工学会 電子出版