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嵐【陽炎型駆逐艦 十六番艦】その2
Arashi【Kagero-class destroyer】

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隠密雷撃とレーダー奇襲 夜戦で突然の死

5月に修理を終えた【嵐】は、1年ほど前にとりあえず占領したアッツ島、キスカ島の戦況がのっぴきならなくなったことから北に向かうメンバーの一員として配置されます。
ところが間もなく「アッツ島の戦い」でアッツ島守備隊が玉砕し、事態は抵抗から撤収に切り替わり、この任務は中止に。
【嵐】は7月に第一航空戦隊や【日進】達を護衛してトラックに向かいました。
この時潜水艦からの魚雷攻撃を受けていますが、無事に被害なく突破しています。

到着後【嵐】【日進】【利根】らとともにラバウルにまで進行。
21日の夜に【嵐】【萩風】【磯風】とともに【日進】を護衛してラバウルを出撃し、ブーゲンビル島ブインを目指していました。

ところがアメリカは暗号解読によってこの輸送を事前に察知しており、【嵐】達の未来は大変暗いものでした。
翌日昼過ぎ、ブインまであと少しというところまで4隻はやってきました。
しかしここを狙って張り込んでいた敵機の群れが、輸送を阻むために襲いかかってきました。

標的となったのは、もちろん人も物資も一際多く積んでいるであろう【日進】
ブインからの護衛で【零式艦上戦闘機】が出撃していたものの、【零戦】16機に対して敵は130を超えており、数で圧倒されて攻撃を防ぎきれません。
大型、そして輸送の要と見える【日進】にはえげつない攻撃が加えられ、直撃弾は6発とも記録されるほどの猛攻を受けます(当然至近弾も多数)。
【日進】はよく耐えたのですが、次々に繰り出される攻撃はどんどん【日進】を蝕み、やがて1,000人を超える多くの乗員とともに沈没してしまいました。
残った3隻はそもそも揚陸のための兵士達が満杯だったために救助ができず、カッターだけ降ろして急遽ブインへの揚陸を実施、終わり次第取って返すことになりました。
戻ってきたころにはすでに日が暮れていて、その中でも必死に海面に顔を出し続けていた生存者達を引き揚げていきます。
ですがアメリカはその行為すら許さず、夜間でも航空機が襲ってきたため、満足な救助活動もできないまま3隻はラバウルに戻るしかありませんでした。

【日進】を失ったことで、鼠輸送はより重要な輸送手段となりました。
重火器や戦闘車などの輸送手段はさらに制限され、機関銃や弾薬、食料といった、手で持ち運びができる物やドラム缶に詰め込める物をできるだけ数多く届けるしかなくなります。

頻繁に島を行き来する中で、8月1日に【嵐】【萩風】【天霧】【時雨】とともにブインからコロンバンガラ島への輸送を実施。
途中哨戒機より魚雷艇出現の報告を受け、うんざりしながら攻撃体勢に入ります。
コロンバンガラ島目前のブラケット水道で報告通り魚雷艇が攻め込んできたため、追い払うために砲撃を行います。
当時は視界が悪く魚雷艇が肉薄することはなかったので、小競り合いだけで突破しています。

ところが揚陸作業中、いきなり上空から一発の爆撃が投下されました。
数十メートル側に投下された爆撃に【嵐】は驚きました。
当日は新月だったためあたりは真っ暗、それに雲も艦影を隠してくれていた中での爆撃だったので、空襲があるにしてもこんな近距離に爆撃が落とされるとは思ってもみませんでした。

ヒヤヒヤしたものの今回は無事に揚陸が完了。
急いで撤退しますが、その復路でも再び魚雷艇が顔を出しました。
また攻撃していた中で、不意に【天霧】の目の前に魚雷艇が飛び出してきます。
あまりに突然の出現だったため、【天霧】は回避することができず(意図的だったという証言もあり)、そのまま魚雷艇を轢き潰してしまいました。
これが有名な、ジョン・F・ケネディが艇長を務めていた【魚雷艇 PT-109】との衝突です。
【天霧】も損傷はしましたが航行には支障なく、無事全艦ラバウルへ帰還しています。

しかし前述の通り鼠輸送の輸送量が少ないので、とにかく高頻度で実施するしかありません。
杉浦大佐は、すでに輸送は読まれているからコロンバンガラまで直接輸送をする方法は勘弁してほしいと伝えていたのですが、上層部はルート変更せず、【川内】を護衛として付けることを決定。
この【川内】護衛は正直【日進】の例を見るに、敵の目印にしかならないし遅いし古いしと有難迷惑だったのですが、その意向を汲んでくれたようで、【川内】に座上する第三水雷戦隊司令官の伊集院松治少将は航路のちょうど真ん中あたりになるブカまでの随伴にまで抑えてくれました。

8月6日、【天霧】は衝突の修理が必要だったために【江風】と交代し、4隻はラバウルを出撃しました。
セント・ジョージ岬で北上し、途中で東進南下するという偽裁航路を取り、【川内】は護衛を終えて単艦ブインを目指します。
しかしこの動きは偵察機により午後には詳らかになります。
無線傍受をすると、偽裁は完全に見破られていたようです。

頼みの綱はこのどんよりとした天候でした。
敵は飛行していますが、当日味方機は悪天候を理由に偵察を中止しており、このまま天候が悪くなれば視界が遮られて逃げ切れるかもしれません。
しかし夕方には敵艦隊に動きがあったという入電もあり、夜戦も視野に入れる必要がありました。
天はどちらに味方するか、まさに嵐がやってきて、我らを救ってくれるか、【嵐】はそのような気持ちだったかもしれません。

しかし天を味方に付けずとも、連合軍には実力で勝利を手繰り寄せる術を持っています。
「ビラ・スタンモーア夜戦」、そして「クラ湾夜戦」
いずれもかつては日本海軍が一も二も上回っていた夜戦の強さを連合軍がひっくり返した戦いです。
レーダーがあれば、少々の悪天候などものともしません。
むしろ悪天候が相手の視界を遮るため、連合軍にとって有利にすら働きます。

スコールの中を3隻は突っ走り、右舷にベララベラを確認。
まもなく左舷にコロンバンガラが見えてきます。
21時30分頃、ついに敵艦を視認しました。
【萩風】を先頭にして輸送隊は右舷に現れた敵との戦闘体勢に入ります。

しかしこの時すでに日本艦はアメリカの用意した罠の中に飛び込んだあとでした。
アメリカ側は砲撃よる火炎や魚雷発射の際の発光を抑えるなど徹底した隠蔽行動をとっており、目しか探査手段がない日本の弱点を大いに活かした動きですでに魚雷を発射しており、なおかつ横に回り込むように移動済みでした。
つまり【嵐】らが敵を発見した時、すでにアメリカ側は「ベラ湾夜戦」に向けて十分な攻撃を仕掛けた後だったのです。

敵艦発見の報告が矢継ぎ早に飛んでくる中、1つ決して聞き漏らしてはならないが飛んできました。
「雷跡発見!」
気付かぬうちに放たれていた魚雷が、ぐんぐん【嵐】に迫ってきていたのです。
これは何も【嵐】だけではありません、4隻全てに等しく襲いかかっている死神の鎌でした。

この鎌は【時雨】の首こそ刎ね損ねますが、残り3隻は綺麗に血祭りにあげました。
【嵐】【萩風】は大破炎上、【江風】は轟沈してしまったためいつの間にか視界から消え失せています。
煙突からは煙ではなく炎が吹き出し、船は動かない砲も動かない魚雷も動かない。
機銃だけが空しく発射されていましたが、【嵐】に未来はありませんでした。

闇夜に真っ赤に燃え盛る標的に向けて砲弾が次々に飛んできます。
【嵐】は火炎に包まれながら左へ傾斜を始めました。
あとはただ木材やカッターを海上に降ろして脱出を図るしかありません。
総員退去の命令を受け、皆次々に海に飛び込みました。

やがて【萩風】が大爆撃を起こし、【嵐】は対称的に艦尾から静かに沈み始めました。
完全敗北です。

唯一生き残った【時雨】も、不発だったものの魚雷が命中しています。
幸運だったとしか言いようがありません、最悪4隻全てが何の抵抗もすることなく沈没していたかもしれませんでした。
【時雨】の目の前で【江風】が轟沈し、また【嵐】が炎上していたのは把握していたしたが、先頭の【萩風】も被害を受けていたとはわかりませんでした。

反転しながら魚雷8本を発射し、次発装填後に再び戦場に戻ったものの、ここでの突撃は自殺行為でしかなかったため撤退せざるを得ませんでした。
【嵐】はこの戦いでコロンバンガラへの増援部隊含めて180人ほどの戦死者を出しており、脱出できたものの艦長の杉岡幸七中佐はベララベラにたどり着くことなく溺死してしまい、一瞬にして第四駆逐隊は半壊。
長らく誰かが欠けていた状態だった第四駆逐隊は、8月5日に【野分】が修理を終えたことで1年以上ぶりに全艦が揃ったばかりでしたが、その矢先の悲劇でした。

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