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初月【秋月型駆逐艦 四番艦】その2
Hatsuzuki【Akizuki-class destroyer】

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「テキパキ」は設定上、前後の文脈や段落に違和感がある場合があります。

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諸君の足止めに参った 進みたければ我を討て

第六十一駆逐隊は張り子の虎の空母群、すなわち小沢艦隊の一員として20日に日本を出撃。
そして24日、栗田艦隊「シブヤン海海戦」で敵空襲を受けて反転をしていたところで小沢艦隊は敵に発見されます。
敵はまんまと囮に食いつき、25日から「エンガノ岬沖海戦」が始まりました。

【初月】【瑞鶴】の右舷前方に位置し、今日で見納めになるであろう第一航空艦隊旗艦の勇ましい姿を目に焼き付けていました。
やがて羨むほどの数の敵機が上空を埋め尽くし、わずかばかりの【零式艦上戦闘機】が抵抗するものの、すぐに小沢艦隊は窮地に立たされました。
もちろん空母には攻撃が集中しますが、【伊勢】【日向】、そして対空火砲が侮れない「秋月型」にも果敢に襲いかかってきました。

海戦が始まってしばらくもしないうちに、【秋月】から大きな爆撃音と煙が立ち上りました。
直撃弾を受けた【秋月】は、その後原因がはっきりしないものの傾斜、断裂により沈没してしまいます。
残された【初月】【若月】はがむしゃらに反撃を続けますが、元より勝ちを求めぬ戦です、【瑞鶴】をはじめ、空母は1隻また1隻と痛々しい姿を晒し、そして沈んでいきました。
かつては世界最強とも言われた帝国海軍機動部隊の最期です。
そして同時に、小沢艦隊は作戦を全うしました。

【初月、若月】【瑞鶴】から投げ出された生存者の救助に全力を尽くしていました。
また【五十鈴】【槇】とともに、後方で漂流中の【千代田】の曳航や救助を目指していたのですが、これもまた敵機に邪魔をされて2隻とも損傷。
【槇】は死傷者を多数出し、曳航役の【五十鈴】も応急操舵を余儀なくされたため、この時点で【千代田】曳航の道は絶たれました。

それでも日没後の救助を諦めず、【五十鈴】は燃料不足に怯えながらも再び南下。
【若月】【初月】【五十鈴】からの依頼で【千代田】の捜索に参加しますが、この2隻は当時まだ【瑞鶴】の救助を続けていました。
ただ最終的に【初月】【千代田】の救援に向かうことになったようです。[1-P425]

ちょうどこの頃、【千代田】には砲弾が降り注いでいるところでした。
重巡軽巡計4隻、駆逐艦12隻の計16隻(隻数誤差あり)で構成された部隊が、夜間戦闘機に先導されて小沢艦隊を追跡していたのです。
動けない【千代田】は17時頃に沈没しましたが、それに飽き足らず、敵艦隊はさらなる獲物を求めて北上を続けました。
そしてレーダーには、3つの標的が映ったのです。

19時頃、【初月】が突如発砲したのを【若月】達は目撃しました。
【米クリーブランド級軽巡洋艦 モービル】【米重巡洋艦 ウィチタ】【初月】に向けて砲撃を開始し、【初月】が反撃に出ていたのです。
【初月】「敵水上艦艇ト交戦中」の打電を受けて間もないうちに、その矛先は【若月】達にも向かったため、ついに【千代田】の救助は断念され(沈没していることは知りません)、3隻はすぐさま撤退を開始しました。
この時最も敵艦隊に近かったのが【初月】です。

【初月】は煙幕を展開し、砲弾を避けるためにグネグネと舵を左右に振りながら北上します。
しかし煙幕もレーダーの前にはあまり功を奏さず、これだけで攻撃をかいくぐることは不可能でした。
射程の長い重巡と、速射性のある軽巡、そして速度のある駆逐艦。
対してこちらは疲弊しきっており、さらに船には救助兵が満載で重く、逃げ切れるという楽観的な考えは持つことができませんでした。

ここで、【初月】は決意します。
進路を突如転換、単艦で16隻の群れに突撃していたたのです。
【五十鈴、若月】を守るべく、救助した【瑞鶴】らの乗員、パイロットらとともに覚悟を決め、【初月】は高速で南下を始めました。

アメリカのレーダーからは【五十鈴】の姿が消え、そして【若月】の速度が上がったことがわかります。
しかしそれよりも1隻の余りに不思議な挙動に驚きました。

一八五八 第三の目標は他の二隻より大いに関心を引いた。なぜならば、我々に関与してきたからである。[1-P425]

ここからはアメリカの記録と推測に基づく内容となり、時間については誤差が大きいので明記しません。
反転、殿を務める【初月】の最期の生き様です。

敵の前に躍り出た【初月】は、刀を抜き、砲撃を開始。
その砲弾は旗艦の【米クリーブランド級軽巡洋艦 モービル】の近くに着弾。
そして一直線に向かっていくのかと思いきや、艦を反転させ雷撃態勢をとり、魚雷発射を相手に想起させました。

相手が1隻だろうが魚雷は怖い。
この動きから魚雷到来を警戒した巡洋艦は接近を阻まれ、【初月】は間合いを取りつつ攻撃を続けます。
戦いの中で【米ニューオーリンズ級重巡洋艦 ニューオーリンズ】は艦首の前を雷跡が通過したと記録に残しています。[1-P444]
アメリカは機動性のある駆逐艦(第50水雷戦隊)で【初月】に接近して囲い込みを狙いましたが、【初月】は煙幕や砲撃によって敵をいなし、思うようにはさせません。
巡洋艦の砲撃も命中せず、砲弾はどんどん消費されて心配もされています。
双方致命傷を受けることはないまま、実に1時間も【初月】は大立ち回りをやってのけています。

しかし20時38分に被弾が確認されており、他火災や速度低下など、どれだけ【初月】が巧みな操艦を繰り広げてもあまりに多勢に無勢で、【初月】の疲労は色濃くなりつつありました。
それでも【初月】は魚雷を受けることなく攻撃を続け、敵駆逐艦に煮え湯を飲ませる働きを見せます。

魚雷命中の報告が上がっていますが、どうやら実際には命中していないけど爆発は起こったということらしいです。
ですが命中はしていなくとも、【初月】の命の灯火にも陰りが見え始めました。
魚雷を放った後の水雷戦隊が引っ込むと、味方に被弾することを恐れて控えめになっていた巡洋艦の砲撃が再び盛んになりました。
【米クリーブランド級軽巡洋艦 サンタフェ】が照明弾を打ち上げて、ついに【初月】に砲弾が集中的に降り注ぎました。
大小の砲弾を受けて炎上する【初月】
司令長官のローレンス・T・デュボース少将も苛立ちが募り、【重巡洋艦 ウィチタ】に対して、【初月】に接近してとっとと沈めるように命令しています。

ここまで2時間近く、単艦で16隻の敵を翻弄してきた【初月】でしたが、ついに刀折れ矢尽き、動きを止めました。
刀を下ろし、両膝をつく状態の【初月】に向けて、【米フレッチャー級駆逐艦 ポーターフィールド】がとどめを刺すべく突入します。
しかし敵の手で首を落とされることを良しとしない侍は、【ポーターフィールド】が攻撃を繰り出す前に爆発、【初月】は艦首から沈み始めました。
時間にして20時56分ないし59分、【初月】は視界から消えました。[1-P432]

我々は一杯喰わされた。私は断腸の思いである。[1-P437]
こうして1隻の「巡洋艦」との戦いは、アメリカの煮えきらない勝利で終わりを告げました。
敵は【初月】の大きなシルエットと頑丈さから【初月】「阿賀野型」と認識していたのです(「照月型」という意見もありましたが、他にも「青葉型」だったり「夕張型」だったり「大淀型」だったりと、相当大きな船と誤解されていました)。[1-P425~P445]

巡洋艦として16隻の艦船に立ち向かった【初月】は、明確な被害はないものの、【ニューオーリンズ】付近への魚雷の他、【ウィチタ】に対する夾又弾があり、敵から2時間という馬鹿にならない時間を奪い取りました。
そしてこの2時間が、【五十鈴、若月】と救助された空母乗員の命を救ったのです。
1隻の巡洋艦、いや駆逐艦を沈めるだけで疲労困憊となった艦隊は、その後の追撃を断念し、撤退していきました。
【瑞鶴】の乗員を救助していた1隻の内火艇だけが奇跡的にその時【初月】に収容されずに取り残され、【初月】乗員8名、【瑞鶴】乗員17名が助かりましたが、他のすべての兵士達が【初月】と運命をともにしました。

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参考資料(把握しているものに限る)

Wikipedia
[1]空母瑞鶴 日米機動部隊最後の戦い 著:神野正美 光人社