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綾波【綾波型駆逐艦 一番艦】
Ayanami【Ayanami-class destroyer】

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艦型と個艦の説明を分けましたが、単純に分割しただけなので表現に違和感が残っていると思います。
起工日昭和3年/1928年1月20日
進水日昭和4年/1929年10月5日
竣工日昭和5年/1930年4月30日
退役日
(沈没)
昭和17年/1942年11月15日
第三次ソロモン海戦
建 造藤永田造船所
基準排水量1,680t
垂線間長112.00m
全 幅10.36m
最大速度38.0ノット
馬 力50,000馬力
主 砲50口径12.7cm連装砲 3基6門
魚 雷61cm三連装魚雷発射管 3基9門
機 銃7.7mm単装機銃 2基2挺
缶・主機ロ号艦本式ボイラー 4基
艦本式ギアード・タービン 2基2軸
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黒豹の二つ名の如く、闇夜の海上を疾走し、敵に噛み付いた綾波

【綾波】は建造時は「第四十五号駆逐艦」と呼ばれ、昭和3年/1928年8月に【綾波】と改称されます。
「日華事変」では上海や杭州湾上陸作戦に従事しています。

太平洋戦争開戦時は【磯波】【浦波】【敷波】と共に第十九駆逐隊を編成しており、第三水雷戦隊に所属していました。
「マレー作戦」のための船団護衛が【綾波】の開戦時の役目であり、まず一行は、マレーシアのコタバル沖に向かいました。
そして開戦と同時に上陸部隊の侘美支隊が輸送船からマレーシアへ次々と上陸。
まだ真夜中で、しかもイギリス部隊は日本軍がマレーシアへ向かっていることに気付いていませんから、揚陸には何の支障もありませんでした。

しかしひとたび開戦の知らせが入るとイギリスの動きは早く、午前3時半にはもう妨害の爆撃機が飛んできました。
3~4機と数は少ないものの、低空爆撃と機銃掃射で揚陸作業を邪魔しようとイギリスも必死です。
日本は輸送を途中で切り上げるか迷いましたが、「マレー作戦」の中でもこのコタバル上陸は特に重要な輸送であることから揚陸を強行。
6時半までに何としても予定の3回揚陸を達成しようと、出発できる船からどんどんコタバルへ向かっていきました。

ところがイギリスのしつこい爆撃によってついに【淡路山丸】が被弾。
この爆弾は装甲挺に直撃し、この爆発によってガソリン缶に引火して大炎上します。
更にその炎は弾薬にも引火して手が付けられなくなり、【淡路山丸】は放棄が決定。
これが第二次世界大戦における日本の初喪失艦でした。
この時同じく輸送に参加していた【綾戸山丸、佐倉丸】も被弾しており、この揚陸作戦はかなり危険を伴ったものとなりました。

【綾波】【磯波】【哨戒艇第9号】と共に【淡路山丸】の生存者を救出し、輸送が完了した後にカムラン湾へと向かいました。
その後再び輸送船を護衛しながらコタバル沖に進出した【綾波】ですが、この時第三水雷戦隊の旗艦【川内】【九四式水上偵察機】が警戒中に【蘭O19級潜水艦 O20】を発見します。
【九四式水偵】【O20】に対して60kg爆弾2発を投下。
これによる被害はなかったものの、今度は発見位置の報告を受けた【綾波、浦波】【夕霧】が次々と爆雷を投下します。
【O20】はこの攻撃でも大ダメージは負わなかったものの、しかし聴音機を破壊されたほか浸水の影響でお尻が少し浮いてしまう形となりました。

日没まで海底に潜んでいた【O20】ですが、潜んでいたのは日本も同じ。
海面に姿を現したところを【浦波】がばっちり発見し、今度は探照灯を照らしながらの砲撃が始まりました。
この時【O20】は艦首が下がりお尻が浮く状態だったことからスクリューが少し海面に出てしまっており、スピードが出ない状態でした。
【O20】は混乱しながらも魚雷を発射しますがこれも命中せず、更に【綾波、夕霧】も駆けつけて砲撃は続きます。
結局【O20】は注水による自沈処分がなされ、後ほど32名が救助されています。

その後は香港沖で被雷した【給炭艦 野島】【香椎】らと救援したりと本土からベトナム、マレーシアに渡る南シナ海で活動を続けます。
ですが昭和17年/1942年2月17日、【綾波】はマレー半島東のアナンバス諸島沖で暗礁に接触してしまい、そこでスクリューを損傷してしまいます。
【綾波】はこの状態で「蘭印作戦」に引き続き従事するのは難しいと判断され、一時的に馬来部隊の一員として行動することになりました。

4月22日に【綾波】は呉へと戻ってきます。
そして損傷したスクリューなどの整備を行い、一方で「ミッドウェー海戦」参加のための準備を着々と進めていました。
【綾波】は「ミッドウェー海戦」では連合艦隊の護衛として出撃したため実際の海戦には参加していませんが、空母4隻を一夜にして喪失した日本海軍はこの日を境に早くも凋落の道を辿っていくことになります。

8月、【綾波】「B作戦」(インド洋作戦)に参加するための準備を進めていました。
ところがそんな中、にわかに南東方面の情勢が混沌としてきました。
アメリカがガダルカナル島に奇襲上陸してきたのです。
しかもこの奇襲で造営中のルンガ飛行場が見事に奪われてしまったというのです。

瞬く間に激戦地へと姿を変えたガダルカナル島。
日本は制空権を失った島への輸送を余儀なくされますが、それがどれほど危険な旅かは数日のうちに思い知ります。
これまでのような輸送船団による輸送ではドカドカ爆弾を落とされるのがオチで、苦肉の策ととして日本は隠密性が高く速度の速い駆逐艦による輸送、いわゆる鼠輸送と、潜水艦による潜水輸送、いわゆるモグラ輸送を行うことになります。
しかし輸送量はいずれも輸送船の半分を軽く下回るので、とにかく数をこなすしかありませんでした。

【綾波】もこの鼠輸送に駆り出されます。
【綾波】自身はこの鼠輸送で被害を負うことはありませんでしたが、連合軍側もこの鼠輸送を黙って見過ごすわけはなく、やはり空襲や潜水艦の脅威と戦いながらの任務でありました。

一方で日本はこの輸送の妨げとなっているヘンダーソン飛行場の無力化に手をこまねいていました。
8月の駆逐艦による艦砲射撃を皮切りに、巡洋艦、戦艦も加わってちょいちょい砲弾を撃ち込んできましたが、しかしヘンダーソン飛行場の復旧速度は早く、さらに新滑走路も完成し、また空母による航空機輸送も頻繁だったため、一時しのぎにはなっても安寧とは程遠いものでした。
しかし日本は制空権を失っている地域への空母派遣に躊躇いがあり、「南太平洋海戦」も空母派遣までずいぶん時間がかかったものでした(「ミッドウェー海戦」が尾を引いているのは言うまでもありません)。
結局作戦上少しでも効果があるこの艦砲射撃を止めることはできませんでした。

海軍は「南太平洋海戦」で【米ヨークタウン級航空母艦 ホーネット】を撃沈し、また【米ヨークタウン級航空母艦 エンタープライズ】も撃破し、空母の脅威は排除されたと判断します。
そこで再び戦艦や巡洋艦を用いた艦砲射撃を行い、陸軍の攻撃を支援するために部隊を整備していきました。
そして11月12日、日本は【比叡】を中心とした艦砲射撃組(第三挺身隊)と、第八艦隊の【鳥海】【隼鷹】らで構成された支援隊・輸送部隊の二手に分かれて出撃しました。

しかしアメリカは事前にこの動きを察知しており、さらには航空機によるガダルカナル島周辺の艦船やヘンダーソン飛行場への爆撃も追い払います。
そして13日に両軍は近代海戦史では空前絶後の、戦艦を交えた超接近戦が繰り広げられます。
双方の敵発見が遅れたため、大混乱の中砲弾や機関砲、魚雷が四方から飛び交うめちゃくちゃな戦いになりました。

この戦いで第三挺身隊旗艦の【比叡】が沈没したほか、【夕立】【暁】も沈没。
アメリカ側はさらに多くの被害を受けましたが、日本にとっては事実上4隻しかいない戦艦戦力のうち1隻を失い、さらに艦砲射撃も輸送もできなかったのが非常に痛手でした。

ヘンダーソン飛行場への艦砲射撃が阻止された日本でしたが、ここで引いては二度とガダルカナル島奪還の機会はないと、すぐさま次の艦砲射撃を指示。
ここで【鈴谷】【摩耶】が護衛の駆逐艦を伴って14日午前2時ごろまでに砲撃を行います。
その後砲撃組は第八艦隊と合流してショートランドへ戻ることになっていましたが、夜明けとともにヘンダーソン飛行場からやってきた航空機の攻撃を受けて【衣笠】が沈没。
さらにはその裏で13日に達成できなかった輸送を強行させた結果、11隻中6隻もの輸送船が沈没するという、目も当てられない被害を受けてしまいます。

苦境に立たされた日本はやはり戦艦による砲撃を行うしかないと判断し、【比叡】の沈没を間近で見ていた【霧島】をトップとして【高雄】【愛宕】による艦砲射撃が決定します。
この時やはり敵艦隊の出撃が予想されたため、第三水雷戦隊はサボ島東から哨戒活動を行って【霧島】の道を用意する役割を任されました。
すでにサボ島付近では報告により巡洋艦2、駆逐艦4の存在が伝えられていて、【川内】を旗艦として、【綾波、浦波、敷波】はこれらを排除する大きな役目を負うことになるのです。

艦砲射撃組とその護衛はサボ島の西側を通過し、第三水雷戦隊はサボ島の東側を南下するルートでした。
予定ではサボ島が接近したところで【川内、綾波】がサボ島を反時計回りにぐるっと回り、【浦波、敷波】はそのまま直進して警戒を続けるはずでした。
ところが午後8時ごろ、先頭を行く【浦波】から、前方に艦影を発見したという報告が入ります。
続いて【敷波、川内】もその艦影を直に確認。
探していた敵艦隊が前方にいるということで、【川内】は予定を変更して【浦波】らと続行、【綾波】だけが念のため予定通りサボ島西側を回るルートを取ることになりました。

やがて3隻はスコールに入った敵艦隊を見失ったため、速度を上げて追撃します。
再び発見したあとは、【浦波】から前方の艦隊の情報が次々に飛び込んできます。
最終報告としては、「駆逐艦4、巡洋艦1」でした。
ところがサボ島の西側に向かっていた【綾波】には、この通信が全く届いていませんでした。
恐らくサボ島がその電波を遮ったものだと思われます。
【綾波】は警戒しながら島を回っていましたが、この間も【浦波】はどんどん敵艦に迫っていきました。

一方でアメリカも日本時間21時頃にようやくレーダーに映った敵影を確認。
距離にしておよそ16,000m。
後方から3隻の船が接近していることに気付いた艦隊は、最後尾のひときわ大きな船2隻が舵を切り、そして爆音を轟かせて砲撃を行いました。
この砲撃は3隻には命中しませんでしたが、想像していない砲弾が飛んできたことで面喰います。
重巡クラスであることは間違いないわけですが、しかしこちらの攻撃はまだ全然届きません。
危険ではありますが間合いを詰めなければ戦闘にならないので、3隻は増速して接近を試みます。

しかし大きすぎる水柱が次々と3隻を襲い、更には照明弾も打ち上げられているためかなり不利な状態でした。
形勢不利と判断した3隻はひとまず煙幕を張り、姿をくらませて敵左舷側から同航戦を仕掛けようと考えます。

交戦中の通信を受けた【長良】達砲撃組の護衛隊は、急ぎサボ島方向へ向かいます。
位置的には【綾波】の後方になりますが、この時の位置ではまだサボ島が邪魔をして艦隊を視認することはできません。
しかし【綾波】は、サボ島の南側に差し掛かったところで突如敵艦隊を発見します。
距離はわずかに8,000m、急いで攻撃準備に入ります。
報告が無かったものの(実際は受信できなかった)、すでに艦隊は【川内】達と交戦していると考えた【綾波】は、敵右舷から奇襲をかけるために突入していきました。

ところがタイミングが非常に悪く、この時3隻はちょうど煙幕を張って身を眩ませたところでした。
敵は後方の敵を見失ったところに飛び込んできた【綾波】に気付き、急いで目標を変更して右舷に主砲を集中させました。
この時は後方の【長良】もまだ支援できる位置には達しておらず、いきなり【綾波】は4隻の駆逐艦、そして2隻の戦艦【米サウスダコタ級戦艦 サウスダコタ】【米ノースカロライナ級戦艦 ワシントン】の艦隊に飛び込んでいくことになってしまいました。
報告にあった巡洋艦、この正体が実は2隻の戦艦だったのです。

【綾波】に気付いたアメリカ艦隊は、【米シムス級駆逐艦 ウォーク】を先頭に【米ベンハム級駆逐艦 ベンハム、米マハン級駆逐艦 プレストン】【綾波】に向かって突撃してきました。
右舷側から迫りくる3隻の駆逐艦に対し、距離およそ5,000mにまで迫ったところで艦長作間英邇中佐は砲撃を命令。
【綾波】は初弾で見事に【プレストン】に一撃を与え、さらに先頭の【ウォーク】に砲撃を集中させました。
【ウォーク】からはたちまち火の手が上がり、12.7cm砲の威力に耐えきれず浸水、傾斜を引き起こします。

しかし【綾波】にも砲弾が次々と飛んできます。
1番煙突付近の被弾により、隣接する1番魚雷発射管が停止。
また内火艇の燃料タンクに引火したことから魚雷付近での火災という非常に危険な事態に陥ります。
それでも【綾波】は攻撃の手を緩めず、残った2番、3番魚雷発射管から魚雷を発射します。

このうち1発が【ウォーク】の艦首に命中し、その炎が1番砲塔の弾薬庫に引火したことで大爆発を起こしました。
【ウォーク】【綾波】の砲撃の後も前方から謎の砲撃を受けていてパニック状態でした。
この支援砲撃こそ【長良】と4隻の駆逐艦のもので、彼女らは敵に全く察知されることがなかったので自由に砲雷撃を仕掛けることができました。

更に【綾波】の魚雷は【ベンハム】にも命中。
【ベンハム】も艦首に魚雷を受けて艦首が完全に破壊されたため、戦闘不能となりました。
後続の【プレストン】【綾波】との砲戦で至る所で火災が発生しており、そこを護衛隊に狙われてこちらも戦闘続行が不可能となり、やがて沈没しました。

これで敵4隻の駆逐艦のうち3隻を撃沈撃破。
護衛隊の攻撃もありますが、ほとんどの戦果を【綾波】1隻で上げてしまいました。
一方で【川内】達に照明弾を放った後も間合いを詰めていたために【綾波】攻撃に出遅れた【グリーブス級駆逐艦 グウィン】も、【白雪】の砲撃によって中破、艦首を失っていた【ベンハム】とともに戦線を離脱しています。

しかしここまで接近すると目の前には2隻の戦艦が聳え立っています。
駆逐艦にとってはどでかい主砲もさることながら、数の多い副砲も同じくらい、場合によってはそれ以上の脅威です。
この時すでに魚雷を撃ち尽くしていた【綾波】には戦艦に致命傷を与える攻撃手段は残っておらず、この後の沈没を覚悟しながら12.7cm砲を遮二無二撃ちまくります。

【綾波】にはその【ワシントン】からの副砲がドンドン飛んできて【綾波】を苛みます。
そして2発の機関室付近の被弾によって【綾波】は航行不能となり、あとは12.7cm両用砲の餌食となる他ありませんでした。
ですがこの被弾の直前に【綾波】【サウスダコタ】の艦橋に砲撃を命中させており、この砲撃によって【サウスダコタ】では人為ミスも重なって電気系統が一時遮断され、副砲からレーダーからあらゆるものが停止してしまいます。
この影響はその後の【霧島】との砲撃戦でも引きずっており、【サウスダコタ】は大破撤退という憂き目を見ています。

【ワシントン】の副砲によって大炎上した【綾波】は、この炎が魚雷や弾薬に引火することは確実であることから総員退去が決定します。
しかし浮揚物をありったけ海面に投げ込んだ後の脱出だったため、これだけの猛攻を受けながらも戦死者は42名とかなり少数でした。
【綾波】はやがて魚雷や弾薬庫の誘爆によって、まるで自らの大戦果を誇るかのような大爆発を起こして沈没していきました。
脱出した乗員は【浦波】に救助されています。

振り返ってみれば、【ウォーク】を撃沈、【プリストン】を大破に追い込み、更に【ベンハム】はこの時こそ逃げ切ったもののその日の夕方に浸水著しく自沈処分を下されていますから、実質2隻を撃沈しています。
さらに【サウスダコタ】の影響力を低下させたことで、これを小破とするのであれば、駆逐艦2撃沈1大破、戦艦1小破となり、えげつない戦果であることは疑いようがありません。
前々日の【夕立】の戦果が混乱を極めたために単艦の正確な戦果が不透明な一方で、【綾波】の戦いは【綾波】しか戦場にいなかったも同然ですから、現代に至っても大いに誇っていいものでしょう。
その黒い船体で闇夜を駆け巡った姿から、【綾波】「黒豹」と称されました。

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