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翔鶴【翔鶴型航空母艦 一番艦】
Shokaku【Shokaku-class aircraft carrier First】

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「テキパキ」は設定上、前後の文脈や段落に違和感がある場合があります。

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姉は妹を守るもの 被害担当艦は強さの証

進水前の【翔鶴】前での記念撮影

進水日を迎えた【翔鶴】ですが、6月1日はあいにくの曇り。
慎重に慎重を重ね、用心に用心を重ねたセッティングを行っていましたが、いざ進水式のクライマックス、進水を行う直前、天候が急激に悪化しました。
久々の大型艦の進水とあって、溢れんばかりの見学者が式を見守っていたのですが、暴風雨の中で全身びしょ濡れになってしまいます。
今後の日本の行く末を暗示したのか、【翔鶴】の行く末を暗示したのか、荒天の中なんとか【翔鶴】は進水しました。

進水後の【翔鶴】のなんと巨大なことか。
戦艦クラスの【赤城、加賀】と比べても遜色なく、加えて高さを極力下げた「翔鶴型」もまた、日本の艦船の特徴とも言えるスマートさを備えていました。
加えて艦首の乾舷は高く設定されていて、正面から見たときのそびえ立つ威厳・恐ろしさも、戦艦クラスでした。

そして【翔鶴】は太平洋戦争開戦間近の昭和16年/1941年8月に竣工します。
間近というのは、まさに【翔鶴、瑞鶴】の竣工こそが対米戦争の開戦時期へ影響したと言われているからです。
所属こそ第五航空戦隊ではありましたが、最強の空母であることは誰もが認めていたのです。
しかし一航戦【赤城、加賀】、二航戦【蒼龍、飛龍】に比べるとパイロットの練度がまだ低く、五航戦は「真珠湾攻撃」では艦艇攻撃ではなく基地攻撃に従事します(一・二航戦の乗員の練度が極端に高すぎただけであり、決して五航戦の乗員の力不足だったわけではないと言われています)。

真珠湾攻撃出撃準備中の【翔鶴】

4月5日、9日の「セイロン沖海戦」では一・五航戦による空襲で【英空母 ハーミーズ】を撃沈するなど活躍。

そして5月8日、「珊瑚海海戦」が勃発します。
アメリカの勢力は【レキシントン級空母 レキシントン、ヨークタウン級空母 ヨークタウン】
【翔鶴、瑞鶴(+祥鳳)】VS【レキシントン、ヨークタウン】
世界で初めての空母同士の戦いが繰り広げられました。

この海戦で日本は二方面作戦を展開していたのですが、前日の5月7日に【祥鳳】を始めとしたMO主隊が発見されてしまい、【レキシントン、ヨークタウン】の艦載機の襲撃によって沈没してしまいます。
この発見は本来空母2隻・重巡4隻を発見したという報告を受けて出撃したものの、これは誤報で、重巡2隻・駆逐艦4隻発見の暗号が誤ったものとされています。
しかし報告を受けた艦隊とは異なるものの、【祥鳳】発見は嘘から出た真になったのです。

一方日本も偵察によって空母を発見しているのですが、これもまたアメリカ同様誤報であり、そこにあったのは【シムス級駆逐艦 シムス】【油槽船 ネオショー】
この2隻の撃沈には成功しますが、双方の誤報の後、いよいよこの2隻同士の、敵影見ずの真っ向勝負がはじまります。

5月7日夕方、夜間着艦の危険を踏まえた上で攻撃圏内に入ったアメリカの機動部隊に向けて2隻から計27機の【九七式艦上攻撃機】【九九式艦上爆撃機】が発艦。
しかし迎撃に出てきた【F4F ワイルドキャット】に仕留められてしまい、艦攻8機を失っています。
この際、攻撃を中止して空母に帰還する予定だった艦爆隊が、信号を送って着艦しようとしていた空母の正体が実は【ヨークタウン】だったという珍事が起こっています。
この時アメリカも日が沈むことから日本の艦爆隊を追撃せずに帰還することになっていて、アメリカ側も着艦寸前まで日本の艦載機だとは気づかなかったようです。
残念ながら撤退のために足を引っ張る爆弾はすでに投棄しており、この時に攻撃をすることはできませんでしたが、これにより日本は明確な【ヨークタウン】の位置を確認することができました。
しかしこの競り合いと夜間着艦の損傷によって、日本は少なくない被害を負っています。

5月8日未明から明け方にかけて、双方再び偵察によって互いの位置を確認。
機動部隊殲滅のために艦載機を発艦させます。
道中で一部の攻撃隊がすれ違ったようですが、そこでの戦闘はなく、一心不乱に敵空母に向けて突っ込んでいきました。

当日天候は悪く、MO機動部隊の陣形の統率は取れていたとは言い難いです。
【瑞鶴】は運良くスコールに身を隠すことができたものの、【翔鶴】とは8kmもの距離が開いてしまい、また護衛艦の護衛も十分なものではありませんでした。
そして【瑞鶴】を見失ったアメリカ機は【翔鶴】に殺到します。
機銃の量は明らかに少なく、【翔鶴】【零式艦上戦闘機】を飛ばして迎撃体制を取りますが、【F4F ワイルドキャット】の妨害を受けて【翔鶴】は多大な被害を受けてしまいます。

空襲を受ける【翔鶴】を米軍機より撮影

急降下爆撃の嵐に【翔鶴】はたちまち大炎上。
命中弾3発・至近弾数発の被害を受けた【翔鶴】ですが、爆弾のうち1発がガソリンに引火してしまい、【翔鶴】は赤い炎と黒い煙に覆われました。
アメリカだけでなく、【瑞鶴】の乗員までもが「翔鶴轟沈!」と思ってしまうほどの炎上でした。
艦首付近に直撃した爆弾は錨をふっとばし、エレベーターも陥没して艦載機の運用は完全にストップ。
次の写真のように艦首付近と甲板も破壊され、見るも無残な姿になった【翔鶴】でしたが、しかし機関部は最後まで守られ、また魚雷も少なくとも被雷した形跡はなく、【翔鶴】は全速力で戦場から離脱します。

珊瑚海海戦で大損害を負った【翔鶴】

一方攻撃面では、日本とは違い万全な輪形陣を敷いていた米機動部隊に対して突撃。
陣形が乱れたところで【レキシントン】に襲いかかり、魚雷2本を命中させます。
【レキシントン】【赤城】同様巡洋戦艦を改装したもので、魚雷によって大きな被害を負いますが、まだ沈むには足りません。

第二波では【翔鶴】所属の攻撃隊が【レキシントン】を、【瑞鶴】の攻撃隊が【ヨークタウン】を攻撃。
【レキシントン】に対してさらに2本の魚雷と2発の命中弾を叩き込み、やがて【レキシントン】は気化したガソリンに引火して大爆発を起こします。
最終的に【レキシントン】【米ポーター級駆逐艦 フェルプス】の雷撃処分によってその生涯を閉じました。
【ヨークタウン】に対しては命中弾が1発だけだったものの、至近弾3発の影響もあって大きなダメージを与えました。

最終的に

【瑞鶴】被害なし
【翔鶴】大破
【レキシントン】沈没
【ヨークタウン】中破

と、一応戦術的勝利を収めた日本。
しかし前日に【祥鳳】を失ったり、ポートモレスビー作戦も中断せざるを得ず、完全に痛み分けの海戦となりました。

「珊瑚海海戦」で受けた損傷修復は次の「ミッドウェー海戦」に間に合わず、【翔鶴】は呉の地で先輩の一挙沈没の訃報を知らされます。
この時アメリカは「珊瑚海海戦」で中破した【ヨークタウン】を再度投入。
【ヨークタウン】は沈没しますが、投入が間に合ったアメリカと日本の差を感じることができます。

「ミッドウェー海戦」により一・二航戦を失った日本は、新たに【翔鶴、瑞鶴】を一航戦として編制します。
海戦後、【伊勢】で実用実験がなされた21号対空電探が優先的に装備されています。
21号対空電探は実験で航空機を70kmの距離で探知することができたため、特に自艦が非常に脆い航空母艦は迎撃体制をすばやく取ることがなによりも重要でした。

「ガダルカナル島の戦い」で泥沼の制空権争いが続く中、「第二次ソロモン海戦」では【ヨークタウン級空母 エンタープライズ】に一撃を与えていますが、これは大したことなく、【龍驤】が沈められています。
そして10月25日に「南太平洋海戦」が生起。
再び【エンタープライズ】と相まみえることになりました。

午前5時30分、【翔鶴、瑞鶴】から米機動部隊に向けて艦載機が発艦。
同時期にアメリカも攻撃機を飛ばしているようです。

先制したのはアメリカでしたが、これは索敵機の【SBD ドーントレス】2機が随伴艦の【瑞鳳】を狙ったものでした。
完全に虚を突かれた【瑞鳳】は艦尾に被弾し、残念ながら護衛艦を伴って戦線離脱しています。

南太平洋海戦で攻撃準備中の【翔鶴】

続いて本体が日本艦隊に突入。
この時第二次発艦が遅れていた【瑞鶴】は風上に進路をとっており、【翔鶴】は南下したためにまたも2隻は分離。
ここでも再び【翔鶴】は集中攻撃を浴びることになります。
命中弾3発を受けた【翔鶴】は大破しますが、いずれも致命傷は回避、また被弾後の消火活動なども迅速だったために、大破ながらも最小限の被害で済んでいます。
しかし甲板はボロボロになり、自艦所属の艦載機の収容ができなくなってしまいます。

【翔鶴】の南太平洋海戦での被害

一方【翔鶴、瑞鶴】の攻撃隊はスコールに身を隠している【エンタープライズ】への攻撃を避け、【ヨークタウン級空母 ホーネット】に突入します。
被害が多い中でも第一波の攻撃は見事成功し、いきなり3発の命中弾と1発の至近弾、そして2本の魚雷を浴びせます。
懸命な消火によって火災は沈下したものの、電気系統を全滅させたことにより【ホーネット】は航行不能状態となります。

続いて第二波が【エンタープライズ】に到達し、2発の命中弾を記録。
特に2発目はエレベーター付近に直撃し大きな火災を発生させました。
その後【隼鷹】の攻撃隊が【エンタープライズ】【サウスダコタ級戦艦 サウスダコタ】を攻撃し、【エンタープライズ】には至近弾1発、【サウスダコタ】には1発の命中弾がありました。

第二波の攻撃を終えたところで、2隻の空母に被害を負っているアメリカは撤退を開始。
【ホーネット】【ノーザンプトン級重巡 ノーザンプトン】によって曳航されることになりました。
しかし日本はこの好機を逃すわけにはいかず、残りの戦力を全て注ぎ込んで空母壊滅に動きます。
【瑞鶴、隼鷹】の残存機(【翔鶴】の機含む)は【ホーネット】に魚雷1発と至近弾1発を与え、ついにアメリカも【ホーネット】の放棄を決意します。
索道が切れた【ホーネット】はさらに最後の出撃だった【隼鷹】の第三波攻撃によって4発の爆撃を受けました。

が、【ホーネット】のなんと丈夫なことか、電気が完全に止まっているので動かないものの、真っ赤に燃える【ホーネット】はここに至ってまだ沈む気配がありませんでした。
残念ながら日本も疲労困憊、被害甚大のため、【エンタープライズ】の追撃も、【ホーネット】の撃沈も叶いませんでした。

さらにはアメリカの駆逐艦による雷撃処分でもまだ【ホーネット】は沈まず、夜に【秋雲】【巻雲】が曳航もしくは処分のために向かいますが、この時も3本の魚雷を打ち込んでようやく沈み始めました。
アメリカは合計9発もの魚雷を打ち込んでいて、両国の駆逐艦だけでも12発、さらに戦闘中の魚雷3発を含めればなんと15発。
不発が含まれているはずですが、【武蔵】でも少し驚くほどの被雷数です。
その他アメリカの駆逐艦は、まるで標的艦のごとく【ホーネット】に430発もの砲撃をしています。

「南太平洋海戦」によって、アメリカの空母は全てが被害を受けるということになり、日本はまたも【翔鶴】が大破したのの、ギリギリ勝利を収めました。
しかし【エンタープライズ】は二度の交戦でともに撃破しているものの、遂に沈めることはできず、どころか【エンタープライズ】は「ミッドウェー海戦」から終戦まで生き残った、米軍きっての不死身艦かつ武勲艦となっています。

死闘を繰り広げる【翔鶴】ですが、とどまるところを知らない米軍の攻撃にいよいよ疲弊の色が見え始めます。
戦争は数である、ということが象徴される一つの例が、パイロット不足です。
とにかく激戦をくぐり抜けてきた【翔鶴】は失う命も多く、いよいよベテランや一級品のパイロットが不足してきます。
特に「南太平洋海戦」の被害は致命的で、この海戦終結の段階で腕が立つパイロットの大半が亡くなっています。
常に戦いの先陣を切っていた【翔鶴】の被害は凄まじく、いつしか「被害担当艦」と呼ばれるようになりましたが、これはたまたまではなく、すべて必定のものでした。
一方アメリカは、人口の差だけではなく、工業力の差も見せつけ、毎月のように新しい空母を投入してきました。

昭和19年/1944年5月 あ号作戦直前の対空兵装比較
高角砲 40口径12.7cm連装高角砲 8基16門
機 銃 25mm三連装機銃 18基54挺
25mm単装機銃 14基14挺(すべて橇式)
電 探 21号対空電探 1基

出典:[海軍艦艇史]3 航空母艦 水上機母艦 水雷・潜水母艦 著:福井静夫 KKベストセラーズ 1982年

「マリアナ沖海戦」に参戦した【翔鶴】は、訓練もままならなかった搭乗員が米空母を目指して飛び立ちますが、突破口すら見いだせずただただ撃墜されていくばかりでした。
米軍はこの光景を「マリアナの七面鳥撃ち」と称しています。
ようやく敵機を振り切って艦隊に接近しても、「VT信管(近接信管)」の開発にも成功し、更に山盛りの25mmや40mm機銃によってアメリカは労せずして日本の艦載機をバタバタと仕留めていきました(VT信管の配備数はまだそこまで多くないです)。

一方【翔鶴】にも危機が迫っていました。
艦載機の発艦中、日本の対潜網をくぐり抜けた【米ガトー級潜水艦 カヴァラ】の放った魚雷が右舷に4発、立て続けに命中します。
この時の距離、なんと1kmと【カヴァラ】は報告しています。

一気に右に傾いた船体を戻そうと注水活動を行いますが、今度は注水しすぎたがために左舷へ傾斜してしまいます。
また、前部に直撃していた魚雷の影響で艦首が突然沈下し始めます。
その中で気化した航空燃料が発火し、瞬く間に大火災が発生します。
被害状況はもはや手の施しようがなく、【翔鶴】は頭から海没していきました。

その沈む様は見るも無残で、一気に艦首が海没し始めたため、飛行甲板に出ていた乗員はその方向へ滑り始めます。
そして艦首は先ほど気化・爆発が発生した場所で、しかもそこに通じるエレベーターは途中で停止しており、大穴が開いていました。
つまり、乗員は燃え盛る炎の海へ次々と飲み込まれていったのです。
その甲板を滑り落ちる音は周囲の艦艇にすら響き渡り、悪魔が獲物を引きずり込むような光景でした。

【翔鶴】の戦死者はのべ1,272名、これは日本の空母史上で最も大きな被害でした。
【雲龍】の犠牲者はこれよりも多いのですが、戦闘未経験かつ移動中の犠牲です。)

先代亡き後の帝国海軍を牽引し、様々な戦果を上げてきた【翔鶴】は、米軍の戦力の増大についていくことができず、壮絶な死を遂げたのでした。

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